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WROLD ALL(仮題) …ドイツ語のヴェルトール。 事象世界、宇宙の意。 1月1日 ア ルヘイム(鯰の故郷)というこの国は大陸西方の南部、スードと呼ばれる比較的温暖な地域を領有している国で、大昔からエルプ山脈をはさんだ北部のトイトや 西部のケルト、東部のポレなどに居を構える、ヴァナヘイム、ヴィンドヘイム、ニザヴェリルといった国々とは領土をめぐって何度も戦争を繰り返している歴史 を持つ。 大昔のスードは都市ごとに小国家が軒を連ね、争いあっていたのを300年ほど前に初代の王となるヴァーヴォル1世が統一してアルヘイムを建国したといわれており、そのような国柄もあってか、弱肉強食の実力主義が常識となっている国でもある。 他の国と何度も戦争を行い、その度に勝利してきただけあって兵器や戦術などの技術は高いものを持っているのが自慢でもある。 アルヘイムは(ほかの国も大抵そうなのだが)身分制度の強い国で、王族、貴族、士族、平民、農民の階級ごとに階層を作って社会が形成されていた。 王族と貴族が政治をつかさどり、士族が軍事を担う。 一応、専制主義国家ではあったが地方分権の色も濃いという一面も持つ。 というのも、もともとが小国家の集まりで、統一後300年たつ現在も貴族たちは地方の都市を領有してそれなりの勢力を保っている。 故に、王族の子弟が玉座を巡って争うときなどには、貴族の後ろ盾をどれだけ多く味方につけることが出来るか、というのが重要視された。 第27代目の国王であるヴィーウル4世の死去の直後、次の後継者として最も有力であったのは王弟ニューラーズ公だった。 彼は7つの地方都市領を支配する7人の大貴族の後ろ盾を得て、第28代目のアルヘイム国王として即位するはずだった。 しかし、即位の直前となって7人の大貴族のうち6名が、先王の忘れ形見である12歳になったばかりの幼い王女、ローニを新王をとして推挙、そのまま強引に即位させてしまったのである。 これには、6人の貴族たちとニューラーズ公との間に政治上の権限をめぐる衝突があったと噂されている。 ローニ女王の後見人あるいは摂政となった貴族たちは、既に成人し頑迷で自己中心的なニューラーズ公を御しがたいと判断し、まだ幼い女王を傀儡として自らの思うままに政権を握る心積もりでいたのだ。 当然、王になるはずだったニューラーズ公はこれに納得するはずがなく、唯一自分を後援するラーズスヴィズ伯とともに女王と貴族たちに対し叛乱を企てた。 しかしならが、公とラーズスヴィズ伯の持つ戦力では、既に近衛騎士団と常備軍を掌握した貴族たちに対抗できるはずもない。 どう見ても勝ち目はないはずだったが、公には勝算があった。 公は、切り札ともいえる「援軍」を配下の魔法士に命じて召喚していたのである。 その援軍とは、国外…ヴァナヘイムやヴィンドヘイム、あるいはスードの西端の小国ロガフィエルなどの周辺諸国から呼び寄せたものではなかった。 国内の紛争に外国の力を借りれば、後々面倒なことになるのはわかりきったことだ。 ただでさえ、諸外国はスードの温暖で肥沃な土地を虎視眈々と奪う機会を窺っている。 ならば、公はどこに援軍を求め、貴族たちに対抗しようとしたのか? その答えを、貴族たちは戦場で知ることになる。 近衛軍と常備軍を率いてヴァグリーズの平原へ会戦に赴いた6人の貴族たちは、そこで異様な姿かたちの軍隊を目にすることになる。 見たこともない銃や砲、そして鉄の車を使う、まだら色の服を着た異貌の集団が、そこに待っていたからだ。 修道会の本部ヴァルファズル大聖堂は三つの巨大な円錐状の建築物が寄り集まったような形をしている。 この巨大建築物は250年ほど前に当時の国王ガングレイリ2世が命じて建築が始まったもので、着工してから120年ほど経過した段階で工事が打ち切られ未完成のまま現在に至る。 建築予算が国庫に多大な負担をかけるとの理由から建築途中のまま放棄された西の塔の上部三分の一は、基礎の骨組みだけという少しみすぼらしい姿をさらしていた。 その西の塔に、私たち「姉妹」の寮は置かれていました。 今日も王都から修道会へ魔法士の援軍を求める女王の(貴族たちの、というほうが正しいかも知れない)使者達が大聖堂の城門前広場で開門を求める声を叫ぶ。 ほどなくして人の背丈の3倍はあろうかという巨大な門は開かれ、使者たちは中へと入っていった。 私はそれを寮の自室、南側に面した日当たりのいい小窓から見下ろしている。 最近はそれが、日課になりつつあった。 早駆けの馬で来る使者の一団が大聖堂に来ない日は一日とてなく、彼らが肩を落として帰ってゆかなかった日も未だなかった。 異世界軍…ジエイタイを味方につけたニューラーズ公の軍は既に貴族の支配する二つの地方都市領を攻め落とし、王都まで40里の距離まで迫っているという噂だった。 「姉妹」たちの間では、私たち「魔法士」が異世界軍と戦うことになるのかならないのか…つまりは、修道会が貴族たちに援軍を差し向ける決定を行うのか否かという話題でもちきりで、誰もが訓練や勉強に手のつかない有様…というよりは、噂話や議論のほうに夢中になっていた。 現在のところ、修道会は中立、不介入の立場をとり続けているが、将来的にどうなるのかはわからない。 大聖堂が王都のすぐそばにある以上、この場所も戦争に巻き込まれないとも限らないのだ。 「それは、無いんじゃないのかな」 『黄色の姉妹』のスルーズが唐突にそう言ったので、『赤』のミストや『黒』のスケルグが「突然何?」とでも言いたげげな顔をこちらに向ける。 『黄』の派閥に属する感応系の魔法士であるスルーズは、他人の思考を読む魔法に長けている。 彼女は、私が頭の中で考えていたことを読み取り、それに答えたのだが、ミストやスケルグにはわからない話だったので、二人は怪訝そうな顔をしたのだ。 「修道会は神聖不可侵な神の家だもの。 修道会に手出しをしたら、国中を敵に回すことになるわ。 ニューラーズ公がそんな暴挙に出るとも思えないけれど」 それを聞いて、スケルグが「なんだ、その話?」とあきれたような顔で納得する。 私も、いきなり人の思考を読んで話しかけてくるスルーズの突拍子の無さには少し呆れるものがある。 いきなり話しかけられた方はびっくりするだろうし、周りで聞いていた人たちもいきなり何を言い出したのか戸惑うだろう。 スルーズは、そのあたり天然でデリカシーに欠けているんじゃないかと思える節もある。 「そ、そんなつもりは無いんだけれどなっ…でもその言い方はひどいよっ」 彼女はまた私の思考を読んだけれど、ミストとスケルグには話が伝わってないのでわからない。 スケルグは「二人だけで会話するのやめてくれない?」と溜息をつくし、ミストに至っては何がなんだかわからず、きょとんとしている。 「…で、スヴァンは何を考えていたって?」 スケルグが書き物をしていた手を止めて、私を見る。 私の名前は本当はヒルデというのだけれど、ここの「姉妹」たちはスヴァンヒルデ…さらに前半分だけでスヴァンと呼ぶ。 スヴァンヒルデというのは御伽噺に出てくる、戦場で戦士たちを導く戦乙女の名前らしいけれど、私は自分の名前を変えられて呼ばれるのはあまり嬉しく思っていない。 もっとも、スケルグや「姉妹」たちの多くは「もともとヒルデというのはスヴァンヒルデが短くなった名前なのだからいいのよ」と言って抗議しても押し切ってしまう。 だからなんとなく、私はここではスヴァンという名前で呼ばれていた。
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98 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2014/12/25(木) 08 24 59.56 ID YFMEQl5P 日本ゴルグ自治区から少し離れた港町、かつてゴルグが収める町だったが、ゴルグが陥落した事で、日本が統治する事になった。 大型船が乗りつけられるように拡張工事の最中である港町は、未だかつて無い程の繁栄をしていた。 「ほぉーーっ、ヘンテコな魚が沢山並んでいるぞ!」 日本と大陸を結ぶ交通の要となりつつあるこの港町は、休暇中の自衛官が見物しながら散財する事が多く、市場も賑わいを増していた。 「烏賊なのか蛸なのか微妙な生き物が壺の中を蠢いているぜ?味はどうなんだろうな?」 「いらっさゃいませ、何をお求めでしょうか?」 「この頭がまん丸くて白い蛸っぽい奴、どうやって食べるんですか?」 「あー・・・これは、〆た後、一晩塩に打ち込んでおいて、食べる時に水洗いをしっかりやった後、茹でてそのまま食べるんですぜ。」 「へぇ、美味そうだな、じゃ、それを1匹・・・・うん?」 異世界固有種と思われる魚介類に並んで、見覚えのある魚が葉っぱを利用した皿に山積みになっているのを見つける。 「赤目河豚と草河豚じゃないか?へぇ、こんなのもここら辺の海域でとれるのか!」 「あの・・・旦那、これは毒魚ですぜ?最近潮の流れが変わったのか、見た事も無い魚が釣れるようになりましてね。」 「見た事も無い魚?」 「へいへい、つつくと膨らんだり、ぎょっぎょっと、変な鳴き声を上げるから、珍しがって食べた奴らが居まして・・・・。」 「河豚を食べる!?・・・あの、その人たちはどうなったのですか?」 「暫くすると青い顔をして、口から泡を吐いたと思ったら、そのまま土色になって死んじまったよ、だから最近は毒矢の材料として使われるようになっとりますね。」 「何とも痛ましい事故ですね、日本ではその魚を食べてしまった場合の対処法がある程度確立されてはいますが、死亡率はやはり高いですね。」 「ニーポニアは、この毒魚の毒も対処済みという事ですか、やはりと言うか、流石は大陸に名を轟かせるだけありますな。」 「ちなみに、この河豚だけど、日本では毒の部位だけ取り除いて食べる方法もあるんだよ。」 「毒魚を食べる方法!?そんなのもあるんですかい!?」 魚屋の店主は信じられない事を聞いたと言う感じで、目を大きく見開く。 「私は、やり方を知っている訳ではないけど、専門の料理店が、河豚の毒を回らない様に毒の臓器を切り取って食べられるようにしているってさ。」 「ニーポニアは何故そこまでして、毒魚を食べようとしたんですかい?」 「はははっ、我々は食い意地を張っていますからね、」 「食い意地だけで毒魚に手をだすなんて、信じられませんな」 「最近ゴルグに進出した料理屋でフグ料理でも頼もうかね、店主さん、さっきの白い蛸1匹と草河豚を3匹くださいな。」 「は・・・はぁ・・・。」 自衛隊員が去った後、魚屋の店主は、茫然とした顔で自衛隊員の消えた城塞都市ゴルグに続く道を見続けた。 「ニーポニアは・・・異世界の国は、食い意地だけで毒魚すら調理してしまうとは・・・・。」 レディカ・ポロクチオ 通称:赤毒玉魚 和名 アカメフグ 日本では、毒魚として認識が広い赤い目を持つ河豚の一種。神経毒のテトロドトキシンを含み、食中毒で命を落とす者が後を絶たない。 元々地球原産の魚だが、異世界へ転移する事で、惑星アルクスの海に生息域を広げ、生態系汚染を引き起こしている。 また、その特徴的な姿から、好奇心で口にする異世界人が多く、中毒死が多数発生している。 プクク・ポロクチオ 通称:緑毒玉魚 和名 クサフグ 日本では食用として広く知られている、毒魚で、その身には神経毒のテトロドトキシンが含まれる。 日本の転移に巻き込まれる形で、異世界にもその生息域を広げ、大陸沿岸部で食中毒の被害が発生している。 適切な処置を施していないで、食すと非常に危険、一方、ウミビトを初めとする海の民はテトロドトキシンに強い耐性を持つことが確認されている。 耐性もさることながら、肺機能が低下しても高い皮膚呼吸による酸素供給で生存性は地球人や陸生型アルクシアンよりも高いが、 それでも、摂取は危険で、海の国で法規制が検討されている。 とりあえず、書きかけの話を完成させて投下です。 もう暫く復帰に時間がかかりますが、宜しくお願いします。
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ニポラ・ロシュミックが司令官から呼び出しを受けたのは新品のドシュダムの慣らし運転を済ませた直後だった。 ニポラが所属する第653飛行戦隊は12月9日から断続的に続いた首都防空戦で搭乗員の半数と機材の3分の2を失う損害を出した後、人員と飛行挺の補充を受けて再び最前線拠点に派遣されていた。 ちなみにドシュダムの配備数は定数の八割強、補充されたパイロットの大半は養成所を出たばかりのヒヨコである。 実際あらゆる物資の補給が滞っているなか、いくら生産効率を重視した簡易飛行挺とはいえドシュダムだけはなんとか損失に追いつくペースで補充の機体が―しかも改良型が―供給され続けているというのはちょっとした奇跡である。 「どうですか調子は?」 「悪くないわね」 寄ってきた機付き整備員に手渡された書類に書き込みをしながら答えるニポラ。 彼女がテストしていたのは補充として届いたドシュダムの中でも最新モデルのタイプ31で、この型は性能向上よりも生産工程の省力化に主眼が置かれている。 言うなれば“大概な安物”から“究極の安物”への進化。 あえて言おう、シン・ドシュダムであると。 具体的に説明すると、従来のドシュダムは金属フレーム―金網で編んだネズミ獲りのカゴを連想していただきたい―に合板製の外殻を貼り付けるという方法で製造されていた。 この方式なら機体だけなら町の家具屋レベルの設備で充分製造出来るワケだが、タイプ31では機体の外板に更に安価で加工の容易な段ボールに似た厚紙を採用している。 紙といっても魔法で強化されているので耐熱・耐過重性能において合板に比べさほど劣ることはない。 そのうえ構造材の変更によって機体重量が10%ほど軽減されているので機動性もいくらか向上している。 引き替えに曳光弾で簡単に火が着くという弱点が追加されてしまったが。 「残りの機体の試運転をお願いね」 「了解しました」 「了解しました」 ニポラは新しく配属されたちょっと―というかかなり―特殊な生い立ちをした二人の部下に、滑走路に並んだ最新式“紙飛行機”の試験飛行を代行するよう言いつける。 どちらも15~6歳にしか見えない初々しさと枯れた雰囲気が奇妙に同居した二人の少女飛行兵のうち、茶髪のショートカットで変なヌイグルミを集めていそうなのが「55号」、灰色の髪をセミロングにしたハンバーグが好きそうなのが「69号」という。 二人とも元は捨て子であり、物心ついた時には軍の特務兵養成機関に居た。 そして飛行挺部隊に出向を命じられるまでひたすら殺しの訓練と上官の“夜の接待”をやらされていたという。 新しい部下と打ち解けようと身の上話を振った際にそんなエピソードを聞かされたニポラはかなり真剣に(もうやだこの国)と思ったものだった。 「ニポラ・ロシュミック少尉、出頭しました」 「ご苦労さま、ちょっと待ってて」 第653戦隊司令フラチナ・カルポリポフ中佐は机の上を占拠した書類の山陰から顔を覗かせ、トレードマークの瓶底メガネを光らせながら手近な椅子を指さした。 まだ二十代前半でかなりの美人といっていいフラチナは、積み重なった心労と睡眠不足の相乗効果で奇妙な色気を発散している。 もとはケルフェラクのエースパイロットだったフラチナは被弾した愛機から脱出する際に頭部を強打し、後遺症として空間認識力に深刻な障害が残ってしまった。 今は感覚補正の魔法が掛けられたメガネのお陰で日常生活には支障ないが、それでもちょっと気を抜くと何も無いところで転んでしまう。 そんな訳で再編された653戦隊に新指揮官として二週間前に着任したばかりのフラチナとニポラ以下古参搭乗員の関係は、幸いなことにおおむね良好である。 「よっこいせっと」 書類との戦いに一区切りを付けたフラチナは年寄り臭い動きで机から離れると部屋の中央に置かれたテーブルに地図を広げ、ニポラを呼び寄せた。 「新しい任務があるんだけど」 「今度はスモウプみたいな事はないでしょうね?」 そう言い返されてフラチナは、“チーズと思って口に入れたら黄色いチョークだった”と言わんばかりの表情になった。 4日前、ニポラ率いる小隊はカレアント軍が侵攻したスモウプの街を爆撃した。 事前情報では街には敵軍しかいないはずだったが、実は味方の第108師団の一部が後衛として街に残っていただけでなく、情報の混乱からドシュダム隊に攻撃目標として指示されたのは味方の立て籠もっていた工場だった。 そして昨日、街を脱出した生き残りが私用で基地を出たニポラを襲い、あわやというところで駆けつけた55号と69号が初代プリティでキュアキュアな二人組のごとき大立ち回りを演じて暴徒と化した敗残兵の一団を撃退したのである。 「ホント二人が来なかったら埋められて殺されて犯されてましたよ」 「正直スマンカッタ」 頭を下げるフラチナ。 「まあいいです、済んだことですから」 負けが込んで来てからのシホールアンル軍は万事につけ余裕が無い。 朝出された命令と正反対の命令が夕方に下されるなんてことは当たり前。 司令部の理不尽な命令に理路整然と反対意見を述べた前線指揮官が抗命罪に問われて裁判抜きで処刑!なんてケースも少なくないことを知っているだけに、ニポラも中間管理職の重圧に身が細る思いをしている―実際顔は良いが顔色はあんまりよくない―飛行隊司令をそれ以上追求する気にはならなかった。 「それで任務というのは?」 ニポラが話題を変えたことで露骨にホッとした顔になるフラチナ。 「目標はミウリシジの鉄橋よ、ここを取られると北部戦線の側面に大穴が空いてしまうの」 両軍の配置が書き込まれた地図で見てみると、なるほど敵にとっては格好の侵入路である。 「攻撃目標の鉄橋ですがドシュダム用の小型爆弾で破壊できますかね?」 「まず無理ね、そこで今回は海軍の対艦用爆裂光弾を使うわ」 ニポラは露骨にイヤそうな顔をした。 ドシュダムはそれなりの出力を持つ魔道機関と小型軽量な機体の組み合わせによって比較的良好な運動性能と加速性能を持ち、アメリカ製の戦闘機と互格とまではいかないがある程度は戦える実力を有している。 が、所詮は間に合わせの簡易飛行挺であり、対艦爆裂光弾のような大型兵器を搭載して飛び上がった場合、妊娠した雌牛のように鈍重になってしまう。 「わかってるわ、本来ならケルフェラクかワイバーンがやる仕事だけどケルフェラクの123飛行隊もワイバーンの99空中騎士隊も連日の防空戦闘で大損害を出しているうえに新しい部隊を手配する余裕は無いのよ」 いかにも済まなさそうにフラチナが言う。 「やるしかないワケですか」 「そゆこと」 司令官はハアッと重い息をつくと自分に気合いを入れるかのようにパンと膝を叩いて立ち上がった。 「今度の作戦では私も飛ぶわよ!」 「でも司令は……」 「大丈夫、ケルフェラクに比べればドシュダムは乳母車みたいなものよ」 ちなみに戦後ドシュダムをテストした米軍パイロットは「サルでも飛ばせる」と証言している。 「書類仕事はもうウンザリ!大空が私を呼んでいる♪」 フラチナは両手を広げてクルリと一回転し、次の瞬間、盛大にコケた。 その日の正午過ぎ、第653戦闘飛行隊から選抜された6機のドシュダムが前線飛行場を飛び立った。 対艦爆裂光弾が6機分しか用意できなかったのだ。 最近のシホールアンル軍は何事もこんな具合である。 「遅すぎる、そして少なすぎる」そう恨み言を吐いて死んでいく兵士が一日に何人いるかは神のみぞ知るといったところか。 よたよたと離陸する飛行挺の主翼には一斗缶を連結したような爆裂光弾の発射筒が吊り下げられている。 今回は鉄橋が標的なので生命探知魔法の術式は解除してあり、使い方は無誘導のロケット弾と変わらない。 6機の特別攻撃隊は第一小隊の3機をフラチナが、第二小隊の3機をニポラが指揮し、小隊長機を先頭にした二つの逆V字隊形を上下に重ねた形で進撃する。 ニポラの小隊で一緒に飛ぶのは55号と69号である。 ドシュダムでの飛行時間は55号が7時間、69号が10時間しかないが、適正を認められて暗殺部隊から転属してきただけあって、二人とも無難にドシュダムを乗りこなしている。 フラチナが指揮する第一小隊には公認撃墜3機と4機のベテランがいて、撃墜数は二人を足した数より多いものの、イマイチ飛びっぷりが心配な戦隊司令に寄り添っている。 樽めいた太短い胴体にほとんど上反角の無い分厚い主翼を組み合わせた飛行挺が特徴的なエンジン音を唸らせて飛ぶ様は、航空機の編隊というよりは羽虫の群れを連想させる。 幸い―と言っていいのかどうか―敵の航空隊は東部で行われているバルランド軍の攻勢にまとめて投入されているらしく、敵戦闘機との遭遇はない。 特別攻撃隊がミウリシジの鉄橋に到着し、攻撃の前に上空を旋回して周囲の確認をしていると、普段はぽややんとしているくせにここぞという時にはニュータイプ並に勘が働く55号が線路上を南下してくる列車を見つけた。 高度を下げて列車の上空をフライパスすると、その列車は前線から負傷兵を後送してきたものらしく、無蓋貨車に寿司詰めにされた包帯姿―赤い染みが広がっているもの多数―の兵士たちが盛んに手を振っている。 特別攻撃隊のドシュダムを自分たちの上空援護に来たものだと思っているのだろう。 『司令――』 『分かっている、列車が通過するまで攻撃はしない』 だが現実は非情である。 『敵です!』 69号が反対の方角から道路を北上してくる戦闘車両の一群を見つけた。 「ドチクショーッ!」 品の無い罵声が口を突いて出るのも致し方なし。 傷病兵で満杯の貨車を引いてノロノロと線路上を進む列車より、道路上をすっ飛ばす機械化部隊の方が鉄橋に先に到達することは確定的に明らか。 彼らは戦線に突破口を穿つため快速車両で編成されたカレアント軍の偵察/襲撃部隊であり、全員が某狂せいだー乗りに勝るとも劣らないスピード狂である。 『第一小隊、敵車列を攻撃!第二小隊は上空で待機!』 三機のドシュダムはV字編隊を解き、緩やかな角度で降下しながら道路を爆走する車列に襲いかかる。 フラチナのドシュダムが先頭を走るM18戦車駆逐車に狙いを定めて射撃開始。 タイプ31の装備する重魔道銃は実体弾換算で25ミリ級の威力がある。 対して高速だが軽装甲のM18は主砲防楯の厚さが1インチ(≒25.4ミリ)であり、その他の主要部は0.5インチしかない。 あわれM18はブリキ缶のごとく撃ち抜かれて爆発炎上! 攻撃を終えたフラチナ機が機首を引き起こすと同時に二番機が射撃開始、さらに三番機が後に続く。 第一撃でM18二輌とハーフトラック三台、機関銃と装甲板を追加した強襲用ジープ一台が炎に包まれた。 だがカレアント軍は諦めない、燃える車両を体当たりで道路から突き出してひたすら橋を目指す。 『列車は!?』 上空で旋回を続けるニポラが答える。 『いま鉄橋を渡り始めたところです!』 『くっ!』 フラチナは唇を噛んだ。 すでにカレアントの車列は川に沿った堤防上の直線道路に達している。 「あああもう!」 フラチナは堤防に向けて対艦爆裂光弾を発射した。 爆発によって路肩が崩れ、カレアントの戦車は急停車を余儀なくされる。 堤防の右側はかなり流れが急なカナリ川、左側もぬかるんだ湿地になっている。 道路を迂回して橋に向かうには1マイル近くバックして回り込むしかない。 そのとき一人の兵士がM6装甲車から飛び降りた。 堤防道路は川側が長さ6メートルに渡って崩落しているが完全に不通になったわけではなく、陸側にギリギリ車一台通れるだけの道幅が残されている。 徒歩の兵士に誘導され、旋回砲塔に37ミリ砲を装備した重装甲車はそろそろと今にも崩れそうな土手道を進んでいく。 『続けて攻撃!』 フラチナの命令を受け、第一小隊二番機が降下していく。 当然カレアント軍もやられっ放しではなく、車両に搭載された火器だけでなく、ライフルや拳銃まで動員して撃ちまくる。 激しい対空砲火が浴びせられるが、両翼にかさばる荷物を吊り下げたドシュダムの動きは鈍い。 二番機を仕留めたのは砲塔を失ったスチュアート戦車に不時着したP-39から取り外したオールズモビルのM4機関砲を載せた改造自走砲だった。 37ミリの榴弾が魔道エンジンを直撃し、パイロットが脱出する暇も無くドシュダムは爆発四散! 『三番機逝け!』 非情なる命令! だが兵士は黙って従うのみ。 三番機は撃ち落とされる前に対艦爆裂光弾を発射し、堤防道路は完全に不通となった。 『列車が渡り終えました、これより鉄橋を攻撃します』 ニポラ率いる第二小隊は横一線になって川下から接近し、それぞれ右端、中央、左端の橋桁を狙って対艦爆裂光弾を発射する。 発射された6発のうち2発が橋を直撃、残りも至近弾となって鉄橋は大きく揺らいだ。 だがそれだけだった。 『……ダメみたいですね』 『まあ最善は尽くしたわ、引きあげましょう』 軍用列車の通過に耐えられるよう特に頑丈に作られた鉄橋を完全に破壊するには、ドシュダム三機分の爆裂光弾では火力が足りなかったのだ。。 橋に到達したカレアント軍はまず軽装備の歩兵を渡らせて対岸に橋頭堡を築くとともに橋の修理と補強を迅速に行い、翌朝の日の出とともに最初の戦車がカナリ川を渡った。 飛行場に戻ったフラチナとニポラ、55号、69号はドシュダムから降りると同時に武装した兵士に取り囲まれた。 「貴様等を叛逆罪でタイホするのである」 ハゲでヒゲで脂ぎった中年太りの大佐が横柄な口調で宣言した。 「待ってください話を――」 一歩踏み出し小石一つ落ちていない滑走路でコケるフラチナ。 その背中をハゲヒゲ固太りが踏みつける。 「黙れ罪人」 それを見て飛び出そうとした55号と69号が鳩尾に銃床を叩き込まれて膝を折る 「司令部に連行してじっくりねっちょり尋問するのである」 どこか背徳的なポーズで緊縛された四人は囚人用の馬車に乗せられ、基地を後にした。 その後、特別攻撃隊が渡河を援護した列車に皇族の親戚筋に当たる某陸軍大将の跡取り息子が乗っていたことが判明し、あっちこっちで圧力の掛け合いやら裏取引やらがあって最終的に四人は放免されるのだが、監禁されている間ナニが行われていたのかはご想像にお任せする。
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ボレアリア王城の外れにある一つの尖塔の先に、その姿には全く不釣り合いな数本の金属の棒がそそり立っていた。街の郊外まで電波もよく通る位置にあるその尖塔には、当初からアンテナを立てられるように自衛隊から要請がなされていた。バッテリー、発電機等の管理のため、尖塔を丸ごと一つ自衛隊が借り受ける、という内容にはボレアリアの大臣高官らも多少の不満を漏らしたものの、結局は要求がそのまま通った。今まさにその工事が終了し、開通試験が行われたところである。 通信科の隊員が城の一室で報告を待っていた久口に駆け寄ってきた。 「開通しました。異常ありません」 「うん、ご苦労様。ちょっとかけてみるよ?」 「はい」 久口は懐から自分の携帯電話を取り出し、パキン、と開いた。液晶画面にはしっかりとアンテナ三本の表示があった。彼はそのまま右手の親指でアドレス帳を開き、通話ボタンを押した。耳に当てるスピーカーから数回の呼び出し音が鳴った後、相手が出た。 「…これは異世界からの携帯初通話ということで、いいのかな?」 電話先の相手は日本にいる上官だった。 「はい、そうです。お仕事中申し訳ありません」 「いや、予定通り開通して何よりだ。そっちはどうだい?…」 数分の間、近況の話などをして久口は通話を終えた。その姿をフワンその他数人の近衛隊員が興味深げに眺めていた。 フワンが待ちきれなかったように聞いてきた。 「今、異界の知り合いと話をしていたのか?」 「ああ。携帯電話は何度か東京に顔を出したときに見なかったか?」 「あの恐ろしいまでの石造りの建物に圧倒されて、人々の手元を見るどころではなかったよ…」 久口からプラスチック製の筐体を受け取ると、彼はそれをしげしげと眺めた。裏返したり何度も開閉を繰り返した後、呟いた。 「こんな物で…遠くの人と会話ができるとは…我が国には念話を使える者は十人に満たないというのに…。どういう仕掛けなんだ?」 久口は腕組みをしたまま、笑顔で答えた。 「まあ声を目に見えない光に変えて飛ばすわけだが…この場で説明するのは難しいな」 「そうか…科学とは何でもできるのだなあ」 久口に携帯電話を手渡すと、フワンはある提案を口にした。 「これを陛下や大臣達に用意することはできないか?これを贈ったならば陛下も大変喜ばれるだろう」 久口は少し困惑した顔で答えた。 「そりゃ、まあ物自体はいくらでも用意できるが、表記は日本語だし、充電をどうするか…」 「充電?」 「…いや、使い捨てなんかの充電器をたくさん用意すればいいか…うん、検討しよう」 フワンは顔を輝かせて久口の右手を握った。 「そうか!是非よろしく頼む!これは君らの文化を知らしめる衝撃になるぞ!」 数日後、会議の席にて久口から国王、重臣らへ日本の携帯電話が手渡された。使い方を一通り教わった彼らは、子供が玩具で遊ぶかのように目を輝かせて同席する他の重臣へ電話をかけて回った。久口は苦笑しながら何度も何度も、充電器を取り替えて教えねばならなかった。 「異界の文字は全くわからんが、この『テトリス』というのか?上から積み木が落ちてきて列を揃える遊び、これが面白くてたまらぬ!異界は遊戯も進んでおるのだなあ…」 携帯電話に付属するゲームに熱中していたのは内務卿レイエスだった。ビデオゲームに初めて触った子供のような反応を見て、久口は顔をほころばせた。 老人が勢揃いで携帯電話をいじり倒している光景はとても滑稽だったが、誰もその未知の技術を拒否しなかったのに久口は感心した。彼の知っている老人は、難しそうな物は使う前から受け付けない、そんな人間が多かった。 「皆さん、お気に召して頂けましたか?」 初めて来た頃のように不信感をにじませる表情の重臣は皆無だったが、使い方を理解できなかった数人の重臣は残念そうな顔を見せた。ただ、受信できるだけでも彼らには革命的な物だった。護国卿がこの場にいたなら難癖をつけて紛糾したかもしれないが、彼は今遠くの地で敵を睨んでいる。要らない気に食わない、と言う者は誰一人としていなかった。 「大変満足だ。これからもこのような優秀な文化技術を我々に分け与えてくれまいか。もちろん、貴軍への協力は惜しまぬ」 国王が携帯電話に夢中な重臣達を代表して答えた。 それからすぐに、城下にて携帯電話で会話をするのは重臣のステータスシンボルとなった。警護の兵士や低階級の魔道師、庶民らは羨望の眼差しで彼らを眺めた。 「六芒から五芒に隊列組み替え急げ!」 日暮れ時。本来ならば西の空が真っ赤に染まるはずの海上だが、分厚い黒雲が一面を覆っているために、一帯はすでに暗闇と化していた。 タビラスの艦隊は嵐と合流し、黒雲招来の魔方陣から艦隊を風より防護、整流する魔方陣へと艦隊配置を組み替える最中だった。早くしないと嵐の強風に煽られて正確な陣が組めなくなってしまうので、水夫たちも必死である。 風雨の中、旗艦バリドゥスは魔法の光を利用した発光信号で各艦に細かな指示を送り、陣を発動するタイミングを探っていた。波に揺られながら上空の鳥の目より艦隊配置を確かめ、彼は合図を出した。 一瞬艦隊を繋ぐ魔導の鎖が五芒星の形に光ると同時に、艦隊の周りに流れる風は外の暴風ではなく、航行に差し障ることのない穏やかな風となっていた。 「…やれやれ、成功したか」 額の汗をぬぐいながら、長テーブルの前で水晶玉の相手をしていたタビラスは椅子の背もたれに深く寄りかかった。揺れもようやく落ち着いた室内で、作戦の主役、騎馬隊の隊長が窓から外の様子を眺めていた。 「あとは我々にお任せを、提督」 数センチほどの口ひげを生やし、黒色の軍服に身を包んだ隊長エメン・イクローディは向き直って言った。今は首都ジェルークスで警備隊を率いる彼だが、つい先日までは国の北辺で諸国に睨みをきかせ、北部国境防衛統括を任されているツィッカ・ネイラル次級将軍が最も頼りにしていた歴戦の騎士である。 「敵の守りが堅いようなら無理せず戻っていいからね」 「な~にを仰いますか、提督殿!」 隊長はひげをブルンブルン震わせながらタビラスに詰め寄った。 「都の警備隊長なんて、まあ確かに栄転なんでしょうが、私にとってはつまらん仕事ですよ。やはり馬で駆け抜け、騎射し、槍で刺す、それが騎士の本分というものです!今回呼んで頂いて、私は本当に感謝しているんですよ。なのにそんな、敵が怖かったら逃げ帰ってこいと言われたも同然、承服できませんな!」 顔を真っ赤にして熱く訴える隊長に、タビラスは掌を相手に向けて笑った。 「フッフッフッ、ま…落ち着きなさいよ。言い方が悪かった。犬死するのは許さんぞ、これでいいかね?」 隊長は一つ深く息を吐き心を落ち着かせると、自信に満ちた顔で言った。 「提督はごゆるりと船内でお待ちを。酒瓶を一、二本空ける頃には戦勝報告を持参してご覧に入れます」 「うむ、楽しみにしている」 何を思ったかタビラスはすっくと立ち上がった。そして部屋の隅にある棚に向かって歩き出し、数歩の後、立ち止まるとニヤリと笑った。 「…じゃ、とりあえず景気付けに一杯いこうか」 「はっ、お付き合いします!」 タビラスは頷き、棚に置いてあった従兵を呼び出す鈴をチリン、と鳴らした。 あくる日の夜中、と言うにはまだ少し早い時間帯。折からの強風と雨で、首都沿いを流れる大河の河口付近では人っ子一人見かけることはなかった。漁船も港に固く繋がれていた。沿岸の防衛隊も皆、屯所にこもっていた。まさかこんな日に敵が来るとは予想だにしていなかったのだろう。 タビラスはもう少し遅い時間帯に突入したかった。皆が寝静まる夜半過ぎならば最上だった。しかし天候に詳しい士官、魔道師と彼が話し合った結果、それまで待っていては風雨が止み、雲の切れ間から月が出るかもしれない、という予測が出た。起きている人間が多いリスクと、風雨が止み月の光で騎馬の突進を掻き消せなくなるリスクを頭の中で勘案し、彼は前者を選んだ。 河口付近にゆっくりと大輸送隊の黒い影が近づき、幾艘もの艀が降りた。彼らは迅速に兵馬を渡し始めた。騎兵は辺りに民家の灯りもなく、人影もないのを確認すると河口の草原に整然と列を作った。 「鎧は要らん!帷子の上に黒い戦袍を羽織れ!馬鎧も要らん!馬の足が第一だ!」 イクローディ隊長が指示し、兵は慌しく軽装で外へ出て行く。 「結局、今使える馬は千騎ほどだが、いけるかな?もう少し与えてやりたかったが…体調を崩す馬が多かったな」 いつの間にか背後から現れたタビラスが隊長に問うた。 「千あれば十二分にございます!」 「頼むぞ」 「お任せを!」 隊長も自ら黒い兜と戦袍をまとい、岸へ降り立った。艀を下り、自らも騎乗した。冷たい雨で士気が落ちてしまってはいないか、船旅で体調を崩してはいないか、隊員の顔触れを見渡し、確認する。その時。 「ヒィッ!…」 地元の漁師が一人、草むらの陰に尻もちをついていた。彼は風が心配で漁船の様子を見に、嵐の中川岸までやってきたのだった。慌てて口をふさいだが、その声はすでに聞かれてしまっていた。 彼は走って逃げ出そうとしたが、次の瞬間、数十本の矢が彼の背中に襲いかかった。彼はそのまま絶命した。 「他に人は…いないな」 河口から王城までは5、6キロ程度のわずかな距離しかなかった。馬で駆ければ十五分か二十分か、その程度の時間だろう。今気付かれてなければ、途中の住人に気付かれても連絡するより早く着けるはずだ、と隊長は心の中で確認した。 「魔道隊、雨だが爆衝魔法は大丈夫か」 騎兵に混ざる魔道師のリーダーは顔を伝う雫をぬぐい答えた。 「御心配なく…門に直接陣を張って起動する時間を稼いで頂ければ、失敗は致しませぬ」 爆衝魔法というのは、文字通り爆発を起こして衝撃を与える魔法である。遠くに爆発を起こす魔法は大掛かりになるため、今回は携帯できない。直接物に描いて発動させる必要があるのだが、雨のため、今回は防水処理を施した羊皮紙を門に張ることで代用とした。 「行くぞぅっ!」 隊長の掛け声と同時に、千騎の奇襲隊は泥を跳ね散らし駆け始めた。船を下りたタビラスは飛び散る飛沫が収まるまで彼らを見送った後、退路を確保するように残りの兵士に指示を出した。 城下まで続く海岸沿いの道を、騎馬隊はできる限りの速度で駆け抜けた。激しい風雨に蹄の音はかき消され、雨戸を閉めた家の中から外を覗く住民は誰もいなかった。彼らの目論見通りだった。 ただ一つだけ彼らの誤算があった。道から少し離れた木陰で、補修の終わっていない用水路に風雨に耐えるための応急処置を施すため、自衛隊員の数人が残って作業していたのだった。 隊員は何事かと騎馬隊を眺めていたが、ライトをそちらの方向へ向けてみたところ、トラックやヘッドライトの光に気付いた隊の一部がこちらに殺気を込めて向かってきたのに気付いた。 「おい、あいつら弓構えてるぞ!?退避!退避!」 隊員達は用具を投げ捨てて慌てて車に乗り込んだ。 「なんだありゃ!敵か!」 「あいつらどっから出てきた!?とにかく連絡しろ!」 トラックは野道を発進、急加速した。トラックの後部に無数の矢が突き刺さったが、幌は思いの他頑丈で、矢が隊員の体まで届くことはなかった。 精強な騎馬であっても、さすがに4WDのトラックと雨中の機動力は比べ物にならなかった。矢も魔法も届かない距離まで離されると騎馬は本隊へと再び合流した。 分隊を率いていた副長が隊長に報告しに近寄ってきた。 「異界の者共を逃がしました!申し訳ございません!」 「よい。奴らは城下とは反対方向に逃げたな。要は事が済むまで連絡させなければよいのだ」 彼らは無線の存在を知らなかった。 「敵が侵入だと!?そんなバカな…いや、わかった。すぐに増援を手配する」 逃げ切った隊員からの報告は自衛隊を通じてすぐに近衛隊の元にも入った。城下の自宅で休息していたフワンも先に携帯電話を受け取っていたため、連絡は迅速だった。 フワンは慌てて国王に連絡を入れた。これほど携帯電話がありがたく感じたことはなかった。 「陛下!御無事でしたか!」 「おう、フワン。こんな時間にどうしたのだ?」 携帯電話に出た国王は就寝前の葡萄酒を飲み、ご機嫌であった。 「一刻も早くそこからお逃げ下さい!賊です!城下に侵入しました!」 尋常ではないフワンの声を聞いて国王の酔いも一瞬で醒めた。 「…真の様だな。わかった、地下の隠し通路へ向かう。そちもぬかるでないぞ!」 通話を終え急いで軍装を整えたフワンは妻に、大事が起きた、とだけ伝え、馬に乗り自宅を飛び出した。向かうは城ではなく、近衛本隊が駐屯する場所へのゲートがある街外れである。 「くそっ、油断した…今、城下の兵は百、二百かそこらか…。援軍を引っ張ってくるまで持ちこたえてくれよ…!」 路地を駆け抜ける馬はすぐに漆黒の闇へと消えた。 イクローディ率いる奇襲隊は城門の前まで数人の住民とすれ違ったものの、ほとんど抵抗に遭うこともなくたどり着いた。しかし流石に城門の前に千騎もの兵が並べば門の見張りが気付かないわけがなかった。 警報の甲高い笛が大音量で鳴らされ、城兵がぞろぞろと駆けつけ始めた直後だった。 城門に続く跳ね橋の鎖が堀を渡った魔道師の衝撃魔法と兵士の長斧で切られ、ズズン、と地面を振動させて落ちた。 「急げ!人数が揃う前に突破するぞ!」 馬を下りた魔道師が固く閉ざされた城門に賢者の石で装飾された羊皮紙を貼り付け始めた。周りの騎兵は矢などから彼らを防御するため、周りを囲んだ。 リクマイスの城兵は城壁の横と上に張り出た櫓から必死に矢や魔法を放つものの、数で圧倒的に勝る敵兵に集中的に狙い撃ちにされ、数を減らしていった。 「終わりました!引いて下さい!」 魔道師の合図に従って波が引くように騎兵が下がった。魔道師は門の脇で小さな賢者の石のかけらに陣を起動する念を込めた。 陣を描き、魔力を込めるところまでは人の能力の器から解き放たれたものの、最後の起動の念だけは直接込めるか、念を込めた賢者の石を使い起動させねばならないのだ。この世界の魔法の唯一の泣き所である。 城兵の反撃をしのぎ、念を込め終わった賢者の石を魔道師が魔方陣へと投げつけた。 次の瞬間、鉄の門は大音響とともにこじ開けられた。 「ゆけぃッ!王城までは目と鼻の先ぞ!」 爆発の振動も収まらぬうち、号令の下、騎馬隊は再び進撃を開始した。門の後ろで待ち構えていた歩兵をあっという間に蹴散らし、彼らは街中を走り抜けた。門の近くの住人は爆発音で侵攻に気付いたが、何もできず脅えて雨戸の陰から事態を見守るだけだった。 少数ながら立ち向かった勇敢な市民を一蹴し、彼らは王城へとつながる大通りへ出た。 王の居城の前にたどり着いた騎馬隊が見たのは、入り口の鉄柵の前で籠城せんとする城の警備隊の姿だった。 その陰に四、五人の自衛隊員が混ざっていた。借り受けた尖塔の警備についていた隊員だった。小銃の射程に入ったところで牽制に発射した弾はたちまち数十騎をなぎ倒したが、所詮多勢に無勢、千騎の軍団の勢いを止めることはできなかった。 騎馬隊は大通り一杯まで散り、そのままの勢いで弓矢の射程圏内に入った。敵味方ともに一斉に矢が放たれ、雨風激しい漆黒の夜空に矢の雨が舞った。柵を守っていた警備兵も大量に降ってくる矢を盾で防ぎきれず、一人また一人と倒れていった。 「門前の兵を一掃した後、柵をなぎ倒せぃ!」 隊長の号令により、さらに勢いを増した矢の雨で門を守っていた兵士達は守備を諦め、城の入り口まで後退した。弾薬が心許ない自衛隊員も、尖塔に立て篭もり上から騎馬隊を狙撃する策に変更し、門を離れた。 抵抗のなくなった門に護衛を伴った魔道師達が近寄り、衝撃魔法を放とうとした。堅く重い鉄の門は無理でも、柵程度ならば人の魔力の器でも破壊できる。 彼らが念で魔方陣を組み上げ、発動しようとした寸前、魔道師と護衛の体に無数の穴が開き、門前に崩れ落ちた。自衛隊員が尖塔の小窓から門に近づく兵を狙っていたのだ。イクローディは貴重な魔道師が倒され、歯噛みした。 彼は隊を少し下げさせると、数頭の馬から兵を降ろし、柵に向かって突進させた。馬は風雨をかき分け、柵を突き破らんと駆けた。 馬に激突された柵は倒れこそしなかったものの、地面の軌道から外れ大きくゆがんだ。 なおも柵の前で暴れ続ける馬が肉と金属のぶつかる鈍い音をたて続ける中、突然に轟音が周囲の馬もろとも柵を吹き飛ばした。暴れる馬に紛れて魔道師が門の側まで近付いていたのだった。 「よしっ!行くぞっ!王族は殺すな!」 号令の元、再び騎馬隊は城門に殺到した。 フワンがゲートを抜け、国境付近の国軍駐屯地となっている町に到着するのにかかった時間はほんの二十分程度の時間だった。王都を遠く離れたこの地では嵐の気配など微塵もなく、瞬く星と少し欠けた月が夜空を照らしていた。彼はそのすぐ側に隣接する近衛隊の陣に向かった。 フワンはテントの中で寝ていたラッパ手を叩き起こすや否や、直ちに緊急警報の信号を大音量で吹くように命じた。たちまち近くに借り上げていた民家や小屋、仮設テントなどから何事かと兵士が飛び出てきた。まだ就寝していなかった者が多かったので反応は早かった。 副官がフワンの元へ息を切らして駆け寄ってきた。 「隊長!これはいかがしたことですか!?」 「都が急襲された!至急装備を整えろ!すぐ出るぞ!」 近衛隊長は王宮の中では近衛筆頭補佐官という職名で呼ばれる。国軍は最終的には王が判断するとはいえ、動かすには大臣達の意見を取りまとめる必要があるが、近衛隊は王の私軍的性格を持ち、動かすのにいちいち最高会議に諮る必要がない別組織である。 しかしエリート部隊とはいえ、所詮総数一万程度の軍団の長では、大臣格しか出られない最高会議に出席することはできない。そこで国王が最高会議に近衛隊長を出席させるために用意してあるのが、近衛筆頭補佐官という肩書きなのである。もちろん目的は国軍の牽制だ。形式上、会議内で王に適切な助言を行う役目となっているが、実質は会議の一員であり、大臣と同格の発言権を持っていた。「王の懐刀」と呼ばれる所以である。 馬がいななき、騎馬隊がまずゲートへ向けて駆け出した。その後を銀色の甲冑を着けた歩兵が続々と追っていった。ガシャンガシャンと金属の擦れる音が夜空に響いた。 その慌ただしい様子はすぐに隣の町に陣を布いていた国軍のトップ、護国卿ヴァリアヌス・スピラールへと伝わった。ランプの下、副官とボードゲームに興じていた彼は報告を聞いて、驚くどころかこれ幸いとばかりほくそ笑んだ。 「それで、フワンはどれくらい兵を連れていった?」 「はっ、ここに監察隊として置いていた六千ほぼ全員連れていきました。あとは少数の見張り程度しか残っておりません」 「フーム…フッ…フッフッ、まさに天運、この機会を逃す手はないな」 少し考えた後、内から滲み出るような含み笑いを浮かべ、彼はガタン、と席を立った。 「残りの兵に一服盛るぞ。眠り薬を用意しろ」 「いっ、いいんですか?そんなことをして…近衛隊は王直轄の兵、害を為したら逆賊ですがあっ、イタタタタ」 うろたえた部下の鼻をつまみ上げ、ヴァリアヌスはすごんだ。 「害を為さないために眠り薬を使うんだろうが!ちったあ頭を使え!…そうだな、近衛には内緒の慰労の振舞い酒とでもいって、眠り薬入りの酒をた~っぷり飲ませとけ。酒が飲めない奴には茶でも水でもいい。こちらの兵にはすぐに出発する用意をさせろ。見張りどもが眠りこけたらすぐに発つ」 ヴァリアヌスは敗勢だったボードゲームの駒を手でざらっと払って言った。 「他の地域からゲート越しに兵を集めるのは流石にばれるか…副官!今すぐに動かせる兵はどの程度だ!」 副官はあまり気が進まぬようだったが、ヴァリアヌスには逆らえないのだった。何か苦言を呈しようものなら次の瞬間にクビが待っている。 「ここと近隣の兵四万ほどでしょうか」 「四万か…わかった。ではすぐに手配しろ!全軍出撃する!」 「はっ…委細承知致しました」 ヴァリアヌスは高笑いで従者に具足の準備を命じた。 リクマイス王宮内では凄惨な光景が繰り広げられていた。城の入り口を守っていた城兵はあっけなく騎馬隊に蹴散らされ、城内に侵入を許した。城の雑用をこなす者達が次々と槍に突かれ、馬に蹴られ命を落とした。 「王族の居室はどこだ!」 イクローディはじめ、奇襲隊の先鋒は必死に国王の姿を探し、大理石の廊下を走った。 外では散り散りにされた城兵が一人一人と倒れていく中、尖塔に立て篭もった見張りの自衛隊員が必死に応戦していた。入り口の陰、上空の小窓から塔に近付く者を次々に撃ち抜かれるため、騎馬隊も容易に接近することができないでいた。 時折遠くから魔道師が衝撃魔法を撃ち込むものの、狙撃されないように距離を取っているせいで塔を破壊したり、隊員を殺傷するような威力はなかった。彼らにしてみても、イクローディから無理して攻め込まず塔から隊員を外に出すな、と言う命令を受けていたので強引に突っ込んでくる者はいなかった。 国王は街郊外に通じる隠し通路で立ち止まり、近衛隊の応援が来るのを待っていた。数人の付き人が、粗末な石造りの真っ暗な通路の中、追っ手が迫っていないか後ろを窺った。 寝巻きのままの国王は呟いた。 「王子は無事だろうか…」 「皇太子様は別の通路からすでに城外へ抜けておられます。御安心下さい」 首都の王城に住まう王族は早くに妃を亡くした国王と皇太子家族だけだった。他の王子は地方の別邸に住み、王女達は皆貴族の嫁に出されていた。付き人の答えに頷いたものの、王はため息をついて可愛がっていた子と孫のことを考え、虚空を見上げた。 一方、奇襲隊はいつまでたっても王族が見つからないので焦り始めた。使用人などをしぼり上げ王の行く先を吐かそうとしたが、隠し通路を知る者は城の中でもごく一部しかいなかった。イクローディは隠し通路があるに違いないと踏んで、必死に捜索させたが、すでに敗北の時間はそこまで迫っていた。 いよいよ弾薬が底を付き始めた自衛隊員は遠くから近付いてきたディーゼルエンジンの音を聞いて、渾身のガッツポーズをきめた。 自衛隊の装輪装甲車と後に続く兵員輸送車が猛スピードで王宮へと続く道を走ってきた。王宮の入り口で増援を警戒していた騎馬隊が突進を食い止めようと矢を放ったが、全くの無駄だった。装甲車の放つ12.7ミリ弾は馬と人を吹き散らした。 数台の装甲車は柵を超えて城の入り口にピタリと寄せ、中から飛び出してきた隊員が素早く配置について装甲車の重機関銃とともに射撃を始めた。騎馬隊は大混乱に陥り、散り散りに逃げ始めた。しかし後からさらにやってきた装甲車、展開した隊員によって、逃げ出した騎馬隊もほとんどが討たれた。 瞬く間に城の前で警戒していた騎馬隊は倒され、自衛隊員は城内に侵入した敵兵を掃討するために、小銃を構え突入した。 「…隊長!我が隊はほぼ全滅です…!異界の軍です!」 「何だと!来るのが早過ぎる!」 命からがら銃撃を免れた騎馬隊の一人が城内の一室で尋問を行っていたイクローディに告げた。 「隊長、早く脱出を!」 「くぅ~、あと一歩のところで!」 尋問中の使用人から城の勝手口を聞き出すと、隊長他数人は全力で駆けた。散発的に銃声が聞こえ、次々と自衛隊員に倒されている兵士に彼らは心の中で謝罪しながら走った。 勝手口を抜け、貨物搬入用の小さな通用門を抜けて脱出しようとした彼らだったが、そこもすでに自衛隊員に固められていた。 「ここまでか!」 腰の剣で斬り抜けようとしたイクローディ達だったが、剣が隊員に届く前にあっけなく蜂の巣にされた。 「て…提督……申し訳…あり…ません……早く…退…却を……」 薄れ行く意識の中で最後に呟いたのはタビラスへの謝罪の言葉だった。 「イクローディ隊長戦死!」 急速に増えていく戦死報告を聞き、河口沖に浮かぶ輸送船団ではタビラス他首脳陣の面々の顔にも落胆の色が色濃く映りだしていた。 「…危なくなったら戻れとあれほど言っておいたのになぁ…」 ぼそりと呟いたタビラスの前で、戦死報告をした魔道師がイクローディの髪の毛を選り分け、遺品に入れるよう使いの者に手渡した。 呪殺の手法を応用した生死確認術が開発されると、各国の軍はこぞって導入した。魔道師の念が対象の体に届かなくなれば死、原理は至って単純である。しかし全ての兵士を管理するのは手間がかかりすぎるので、小隊長以上の者に術を施していた。それでも相当な人数を管理しなければならない。魔道師も十数人がかりの仕事になった。 重く沈んだ司令室に伝令の声が走った。 「提督!異界軍の増援がこちらに迫っております!今すぐ退却下さい!」 「バカを言うな。生き残りの兵を収容するまで退けるか。岸で応戦せい」 一蹴するタビラスだったが、騎馬隊から漏れた陸軍の将校の一人は砲弾の恐ろしさを知っていた。彼は真っ青な顔でタビラスにわめいた。 「奴らの飛び道具は目に見えないような遠くから、そこに見えているかのように当ててくる、あまりにも恐ろしい兵器です!早く、早く退却を!奴らの射程に入ったらこの船などひとたまりもありません!」 気が違ったようにまくし立てる将校を見て、タビラスもただ事ではないと感じたが、まだ陸地にいる兵士を見捨てて逃げようとは思えないのだった。 「まだ陸《おか》にいる兵はどうする。置き去りにしてはいずれ軍がバラバラになろう」 まだ撤退を渋るタビラスに副官が目を吊り上げて意見した。 「そうは言っても全滅する訳には参りません!総司令殿には必ず帰って頂かねば!」 沈黙した室内にビシビシと叩きつける雨の音が響いた。 「……誰か残って残存兵を収容する勇気のある者はいるか!?いなければ私がやる」 苦渋に満ちた声でタビラスが言った一瞬の後、 「是非私にお任せ下さい!」 「私が!」 「いや、私が残ります!」 と、タビラスには任せられないとばかりに、次から次に側近、参謀の声が上がった。 タビラスが困惑しているうちに彼らは勝手にくじ引きを始めた。当たりを引き当てた一人の参謀はまるで大金を当てたかのようにガッツポーズをした。 「では提督は即座に退却を!後始末は私めに」 勝ち誇ったような顔の参謀にタビラスは不機嫌極まりない顔で言った。 「…必ず帰ってこい」 「はっ」 参謀は一足先に旗艦司令室の入り口へ走った。そして振り向き、直立不動のまま敬礼して言った。 「提督!今までありがとうございました!」 参謀は面々の顔を見ないで立ち去り、早足で歩きながら側にいた連絡官に命じた。 「命知らずの阿呆どもは第六艦に集結だ!と各艦に信号を送れ。すぐにだ。第六艦の乗員は退艦させろ、いいな!」 第六艦が海上魔方陣から切り離され、船団が沖合いへ消えていく頃、自衛隊の戦闘車両も河口に到着した。小舟を出しても艦に帰れるとは思われないので、第六艦は暴風雨の波間に揺れながら、兵士が艦に泳ぎ着くのを待つしかなかった。 「奇襲!?こりゃまたやってくれたねえ!」 深夜、ボレアリアとの時差は一時間ほどの東京、首相官邸。ベッドの側でYシャツ姿の首相はこれから寝ようかという態勢だったが、その報告は彼の眠気も吹き飛ばした。 「それで、結局沖に逃げられたと。ナメた事してくれたもんだ」 苦笑いしながら、首相は右手で携帯電話を耳に当てたまま左手でペットボトルの茶飲料を口にした。喉を潤してから彼は連絡をよこした自衛官に聞いた。 「それでお城の守備に参加した隊員は大丈夫だったの?」 「はい、軽傷が二名とのことです。いずれも命に別状はないそうです」 「それならまあ、一安心か……」 人的被害がほとんどなく収まったことで、首相はとりあえず安堵した。 「しかしこのまま逃がすのも癪だね。護衛艦出せる?DDか、DEでもいいから。どうせ相手は木造帆船でしょ」 首相その他は沿岸防衛くらいは自力でできるか、とあえて海自を計画に参加させなかった。規模を大きくすればそれだけ露見する可能性が上がるからである。しかし少し見通しが甘かったな、と首相は心の中で反省した。 「護衛艦ですか?今から話を通すとなると、ちょっと調整に時間がかかりますね…F2を出すならすぐですが」 「うーん、できれば指揮官クラスをさ、生きたまま捕まえたいんだよね。いろいろ聞ける話もあるだろうし」 「了解しました。手配します」 電話を切ると、ベッド際で立って話をしていた首相は携帯電話を布団の隅に放り投げた。そして大きなあくびをし、そのまま後ろ向きで布団に倒れ込んだ。しばらく柔らかい布団で興奮を落ち着けた彼は、むくりと上半身を起こした。 「今日は徹夜か…」 愚痴を言いながら彼は防衛相を呼び出すべく、再び携帯電話を手にした。 逃げ出した艦隊は南へ走った。すでに嵐は陸の方に抜け、海は穏やかさを取り戻していた。嵐を防ぐ必要が無くなった後は魔方陣を駆使し、追い風を作りできる限り速度を出すべく工夫を凝らした。 艦隊の行く手の先、水平線の彼方に白い光が姿を現した。かすかに汽笛の音も聞こえてきた。艦隊の面々はもはやこれまで、と覚悟を決めた。 遠くの軍艦から送られてきた発光信号はフォリシアのものだった。艦隊を迎えにきたとの信号を見て、艦隊首脳部は罠ではないかと訝ったが、もはや為す術もない。艦の速度が違いすぎるのだ。 近付いてきた軍艦を見てタビラス達はもう駄目か、と覚悟した。その姿はまさしく異界の軍艦以外の何者でもなかった。鉄の巨大な船体に船首砲、レーダー、ガトリング砲…。彼らが始めて見る兵器や装備ばかりだった。 しかし甲板の船員がはっきりと見える距離になっても、一切その艦は攻撃を仕掛けてこなかった。 彼らは魔法の光でその軍艦の姿を照らし出した。すると艦の縁に確かに見覚えのある顔の人間がこちらに手を振っているのだった。黒い軍帽をかぶり、鼻の横の大きなほくろが目立つ男だった。 「コフか!」 本国で留守を任せたはずの部下の一人、中央作戦本部の一員メリド・コフが、何故か異界の軍艦に乗ってこちらに手を振っていた。タビラスの頭の片隅には、すでに本国が陥ちたか、と最悪の予想がよぎった。 ボートに乗って移乗してきたのは、コフと異界の軍服を着た白人だった。コフはタビラスが出航した後にロシアとの交渉がまとまり、協力してくれることになったことを説明した。 「退却が困難を極めるだろうと思いまして、僭越ながらお迎えにあがりました…本国を離れたことはご容赦を。肝心の提督に信用されぬのでは困りますので」 「…うむ。まさか我々も異界の力を借りることになるとは…わからんものだな…」 船用のゲートを作るのに手間取り、海自のDD護衛艦がゲートを抜けて異世界に姿を現したのは東の空が白み始めてきた頃だった。 艦隊に追いついた護衛艦が見たのは、艦隊に随伴して航行するロシア駆逐艦の姿だった。 「遅かったか!」 護衛艦の艦長小林は艦橋から自らの目でその姿を直接確認すると、渋い顔で腕を組んだ。 「艦長、予定通り帆船の拿捕に向かいますか?」 「………距離を保って待機だ。官邸に連絡を」 先に発進していた偵察機によってロシアの船が近付いていたことは知らされていたが、予定では合流される前に艦隊に追いつけるはずだった。しかし、船が通れるほどの巨大なゲートを構築するのは予想以上に難しく時間がかかった。少なくとも深夜に命じられて、一時間や二時間でできるものではなかった。明け方までに完成したのはむしろ驚くべき早さであるのだが、二者が出会うのを許してしまっては意味がない。 首相官邸にはすぐに連絡が入った。うっすらと目の下にくまができてきた首相は、防衛相と顔を見合わせた。 「やれ、と言うのは簡単だけど…現代艦船の激突となるとこっちが沈む可能性もあるよねえ」 「今からF2出して対艦ミサイル…としても、こっちが敵を拿捕している間に向こうも攻撃機出してくるだろうし…海には対ゲート結界を作る場所がないですからね」 「護衛艦も余ってる訳じゃないし…沈んだらロシアはともかく、こちらはごまかしがきかんだろうな…」 「…帰しますか」 「逃げるようでほんとに癪だが…仕方ないな」 官邸の方針が護衛艦に伝えられた。帰還せよ、との指令だった。艦長はほっとしたような残念なような顔で、帰還すると船員に告げた。 昼過ぎ、河口沖に残った第六艦は海自の熱心な説得により投降した。 首都リクマイスでは奇襲の後始末におおわらわであった。国王は無事に脱出できた皇太子との再会を喜んだ後、死亡した使用人達のために家族で祈った。生き残った側近は通夜や見舞金の手配に駆け回った。 一方、敵にここまで侵入を許した近衛隊の威信低下は必至だった。大きな仕事はあらかた自衛隊が終わらせてしまい、遅れて到着した近衛隊は逃げ出した騎馬隊の残党を捕縛する程度しかやることが残っていなかったのだ。フワンは大臣達の突き上げもあり、当面首都に近衛隊の主力を置くことに決めた。 国王はあの奇襲を予測するのは難しいと言って、フワンを戒告だけの処分に留めた。他の大臣達も、他に適任者がいる訳でもないので異を唱えるものはいなかった。 今後の対応について話し合いに明け暮れたその日の夕方だった。城内の近衛隊詰め所に国境のあの町で見張りをしているはずの兵士が、青い顔で顔を出した。 「何が起こった?」 疲れた顔で問うフワンに、兵士は眠り薬入りの酒で眠らされた隙に護国卿率いる軍が進軍を開始したことを白状した。 額に青筋を立てたフワンは手の骨が心配になるほどの勢いで壁を殴りつけた。 「あのクソバカが!」
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332 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/03/15(日) 23 19 17 ID ITNokvO.0 概ね好評のようなので安心しています。 まだ続きが書けていないので、設定の細かいところについて補足を。 ・全体的に、くろべえさんのような精確で精密な考証はあまり期待しないで下さい。その点を期待されると、幻滅されると思います。 学者ではないし、精確な考証をする能力も無いので、「ファタンジー風読み物」として書いていますので。 史実の知識については、私はここの常連の皆様に劣ると思いますので……。 ・最初に文明レベルを中世~近世程度と書きましたが、出てくるイルフェス王国などの一部列強国は史実の19世紀レベルの技術分野もあります。 中世というのは辺境地域のレベル、近世というのは中等国~列強ではない一等国のレベルです。 ・F世界の主食は、小麦(西大陸の殆どと東大陸北方)と米(東大陸南方)です。 遺伝子的にも皇国のものと交配可能で、現実の小麦や米と全く同じと思って差し支えありません。 芋類や豆類も広く栽培されていますが、これらは「主食」とはみなされていません。 ・農業は、広く肥沃な大陸に少ない人口。開墾も進んでいて、西大陸だけで農地面積自体が史実の近世西欧の数倍あります。 非常に広大な農地を共同で管理する形で、農業生産量は列強国では史実の西欧近世の3倍~6倍程度はあると考えています。 「質が低いなら数で補う」感じの農業形態ですが、「大軍を動かす理由付け」なので、あまり深く考えないで下さい。 ちなみに一部では人糞なども肥料に使われています。 ・それにしても、大軍を動かすのは兵士の腹を満たさねばなりませんので、遠征軍は略奪上等です。 国土防衛軍であっても、場合によっては自国で略奪する破目になります。軍隊は動き続けないと飢え死にします。 ・F世界の遠戦武器ですが、先進国で滑腔式のフリントロックマスケット、中進国でマッチロックマスケット、辺境の後進国で弓やクロスボウです。ライフルは存在しません。 大砲は、陸戦の野戦砲として用いられるのは約2.5kgの鉄球を撃ち出す砲です。史実の6ポンド砲とほぼ同等の性能です。 ・常備軍についてですが、F世界の各国(列強国)が平時に「常備」しているのは士官や下士官、兵の一部の基幹要員のみで、 戦時に大量の平民を動員(強制徴集)することで一気に十数万~数十万単位の軍を編成します。 騎竜兵や騎馬兵、砲兵、工兵等の専門性の高い部隊はそうはいきませんが、陸軍の7割以上は歩兵なので。 なので、軍全体の質は低いです。鉄砲が大量に行き渡っているのも、このような軍備体制と無関係ではありません。 今回の戦いのように、指揮官の撤退命令が出るまで両軍から脱走者が出なかったというのは、それだけでも精強な証しです。 海軍も状況は似たようなもので、奴隷や奴隷同然の強制徴募兵が殆どです。 志願して水兵になった場合は賃金で優遇されますが、艦内での奴隷同然の扱いは他の奴等と同じなので、率先して志願する奇特な人はまず居ません。 将兵の待遇が良いのは、全員が准騎士以上の士格である空軍(飛竜軍)のみかもしれません。 ・兵力過大なので、秋~冬場は勿論、春~夏場であっても戦争が長引くと自国の農業に大打撃があるので、フル動員するという事は稀です。 ・竜について詳しく書いていなかったので、補足ですが、この世界の竜はいわゆる炎や毒の「ブレス攻撃」はしません。 「ただの恐竜の生き残り」と思っていただくのが一番理解が早いかと思います。 飛竜については、「翼竜ではなく恐竜の一種として飛行可能に進化したもの」です。 戦竜については、有名どころの「トリケラトプス」あたりをご想像下さい。 ・皇国語とF世界語 文書にすると当然通じないのですが、口頭で話すと何故か通じてしまうのです。 このあたりは、F世界の神話にも関わってくる事項なのですが、私自身も何故通じてしまうのか案を練っていません。 335 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/03/16(月) 11 35 00 ID ITNokvO.0 応援ありがとうございます。 拙い内容ですが、完結できるように尽力します。 勢いとノリの、なんちゃって火葬戦記 私自身、今投下している小説がまさにそれだと思っています。 なのでこの先いつ、皆様からお叱りを受けるかびくびくしています。 どの辺りまでが許される範囲なのか、空気読めてない場合は叱ってやって下さい。 F世界の竜 F世界の「竜」ですが、恒温動物です。 なので、必要な食物量はえらい事になります。 豊かな列強国にとっても、飛竜や戦竜の維持には苦労しています。 「(F世界の)人類でも維持できる範囲の動物」としては限界の大きさでしょう。 騎竜兵の運用コストは非常に高く、騎馬兵の運用コストが可愛く見えるほどです。 「だったらその金で騎馬兵や歩兵を大量に動員してもいいのではないか?」 という問題は列強国で度々議論されています。 しかし、主に「列強国の威信」と「飛竜や戦竜の仕事は馬や象では代替不可能」、 「敵が持ってるから自分も」という理由で、なんとなく廃止されずに今に至ります。 中進国では一部の国が竜を保有しますが、少数でお飾りの感があります。 後進国や辺境国では常備軍としての竜部隊は存在せず、 必要ならば(辺境国同士の戦争に竜なんて通常必要ありませんが) 野生の竜を数頭捕まえてきて敵陣に突っ込ませるという手段が取られたりします。 国民にとっては、「我が国の軍隊には竜隊がある!」というのは非常に鼻が高いことで、 そのために税金が高くなっている事はあまり気にしません。 コストが非常に高いので、軍事用途以外の民生利用はごく一部を除いてされていません。 「ごく一部」とは、通称「戦竜ファイト」と呼ばれる、 竜対竜あるいは竜対人間の戦いを見世物にするスポーツです。 裕福な貴族や大商人などが趣味で飼うこともあります。 現代日本の高級外車やクルーザーなどと同じく、「富豪のステータス」の一種として飼うのです。 F世界のマスケット 一応、火皿には火蓋が標準装備なので、晴天時より不発率は上がりますが、 霧とか小雨程度であれば発射が全く不可能というわけでもありません。 勿論、通常程度の雨であれば着火はまず不可能ですし、 皇国軍の「雨でも撃てる」とは次元が違いますが。 F世界の銃に金属薬莢の技術はありません。 ですが油紙製の早合が存在し、列強国を含む多くの国で採用されています。
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635 :303 ◆CFYEo93rhU:2013/03/26(火) 21 49 20 ID fbVwy5dQ0 いつも返信ありがとうございます。 631 しかし、接近戦になればあるいは・・・ 接近戦といっても剣や槍の距離まで迫る必要があります。皇国的には銃剣や拳銃、軍刀の距離です。 それより遠いと小銃、機関銃、擲弾筒、迫撃砲、もっと遠いと榴弾砲……航空爆弾。 イソップ童話の、ネズミがネコに鈴をつけようという話に似てるかもしれません。 名案だけど実行が困難な作戦。 ただし白兵戦の熟練度で言えば『剣術の訓練してるF世界貴族 > 皇国軍の一般的な歩兵 > F世界軍の平民兵』くらいでしょうか。 皇国軍の将兵も殆どは、剣や槍の訓練など軍隊に入ってからやってる人ですから、幼少の頃から修練してる熟練剣士には勝てませんよね。 帝國には体内魔力が豊富な種族のダークエルフがいるので彼らに頼むという手段が取れますね。 なまじ自身の魔力が豊富だから、道具に頼らなくても済むので ダークエルフがマジックアイテム製造は出来ない感じですか。 634 東京~小田原くらいの距離を挟んで悶々としていた訳ですからね。 両軍が国道1号線(例)を進めば、遭遇は必然です。 相手方は、セソー大公国経由で海運可能(No.24 777の地図参照)な北方戦線が 主力なのですが、ポゼイユ方面の話に肩入れし過ぎているのは作者のせいです。
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663 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/08/16(水) 12 44 01 [ W5oOpJUs ] おお! 待ってました。 あげときます。 664 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/08/16(水) 13 33 20 [ z4klJyiw ] 日本は法律国家ですんで、遡及法はチョイと 遡及法って、法律をその施行以前になされた行為や生じた事実にさかのぼって適用すること、または法律要件の効力をその成立以前にさかのぼらせることでしょ? 外患誘致罪は今も存在するから、遡及法とはいえないかと ただし、かなり拡大解釈しないといけないけどね 外患に関する罪 第八十一条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。 第八十二条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。 第八十三条 削除 第八十四条 削除 第八十五条 削除 第八十六条 削除 第八十七条 第八十一条及び第八十二条の罪の未遂は、罰する。 第八十八条 第八十一条又は第八十二条の罪の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の懲役に処する 先に述べたけど、これを適用するにはかなりの拡大解釈をしないといけない だって「日本国に対し武力の行使」があったorをさせたと明記されてるからね 88条か87条を適用できるかどうかってところかな? でも、これの81条は凶悪だよな 81条に引っかかると、死刑確定だから 665 名前:名無し三頭兵@F世界 投稿日:2006/08/16(水) 17 27 07 [ zl8xxdK. ] 神栗コンビですか・・ ずいぶんと懐かしいものを・・ 私も大好きでうれしいです。 666 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/08/16(水) 17 45 18 [ aeb4Z3aI ] ファントム無頼ですね。 最近コンビニで本が売られてましたよ。 もちろん立ち読みしました。 667 名前:名無し屯田兵@F世界 投稿日:2006/08/16(水) 19 57 16 [ 5PhziaaQ ] 107様、投下乙です&感想有難うございます。 ファントム無頼そのものではなく、登場人物の名前を借りた某4コマを先に連想してしまったので;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン 668 名前:くろべえ ◆7dmdXxLH3w 投稿日:2006/08/17(木) 05 29 18 [ yq9lkYzY ] 107様、投稿乙です。 いよいよ空自も動き出したか。 F-2C/D(?) F-2A/Bの対空能力向上型。 F-2E F-2A/Bの対地能力向上型。 ということは、次期FXはF15E、F18、F22を押しのけてF-2改になったのですか。 F-2CはF15改のフィードバック型かな? なら既存のF-2A/Bも改修可能ですね。 669 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/08/17(木) 15 43 23 [ bJFcWGuQ ] 投下乙! 久しぶりに更新キターーー! ちっとは進歩した…、してるであろう… ま、ちょっとは覚悟しとけや、 そんなF側の対空戦術に期待してまっせ 670 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/08/17(木) 17 58 06 [ ZCnPwPVg ] 107氏、投下お疲れ様です。 AH-64を維持しようとすると、新型になってしまいますね。 いっそのこと、ミリ波レーダじゃなくて、UWBレーダを載せるとか。 密林内の敵の捜索とか、地雷や地下壕の発見、壁越しの敵の発見あたりまでできるかな。 673 名前:107 投稿日:2006/08/17(木) 23 07 19 [ Nz0LbtT6 ] ※本愚作は、くろべえさんとここまで読んださんの両作品の3次創作です。 なんか微妙に短いのが続きますが、執筆速度を詰まらせない為ですので、ご了承くださいませ。 つか汁!!(自爆 663 目が、目がーーー!?(急浮上で、明るさにやられた模様 664 この法律でマスコミを躾けるのは、鶏を捌くに牛刀を持ち出すようなものでは無いかと愚考します。 拡大解釈は好みでもないですしね。 八十一条の補足条項として意図的な情報操作による、外患誘致にも厳罰をもって対処する事を記載してはどうかなとか思ってます。 まぁ、ココら辺は私も得手ではないですんで、適当に誤魔化しますが(自爆 665 & 666 (・∀・)人(・∀・)ナカーマ!! 667 強くイ㌔! 668 本編で書こうとしたんですが、余談が長くなりそうで排除したんです、其処ら辺。 そゆう訳で♪(嬉々として、設定オタクの本領発揮 >次期F-X F-4EJの後継はF-2C/Dです。 しかも、生産は全部国内で、です。 でコレには凄い裏――と云うか代償がありまして、ええ。実はF-22がF-15JPre-MSIP機の代替に採用しました。 しかもライセンスどころかノックダウン生産すらも許されない、完成品の輸入で。 流石に、消耗品などの保守部品だけは、何とか国産化出来ましたが。 スゲェバーターになってます(笑 まぁ、日本としてはそれなりに技術蓄積が出来て嬉しいし、米国としてはF-22をそのまま売りつけられてハッピーといった所で。 >既存の改修 うぃ~ 片っ端から改修されて、F-2A+とか呼称されてます。 尚、E型機の生産は30機前後の予定でした。 が、この転移で増産が決定されそうです(笑 669 無理ー 陸以上にテクノロジーの差が顕著な空で何とかするのは無理ー 速度も索敵能力も、射程距離も違い過ぎますよ。 特にワイバーン・ロードは爆発的な性能向上が狙えない以上、かなり……… 670 そこまで弄る位なら、同じような機体を新開発した方が良くないですか?(笑 整備とか、訓練とか、まぁ色々とな問題で、現時点では、そゆう魔改造は考えてないと思います>陸上自衛隊
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2004年8月12日 19時21分 北九州市小倉南区北方 居酒屋「次郎ちゃん」 学生街の居酒屋で、大神官ドローテアと防衛庁長官、田所が密かに会見していた。密かにとは言え、目立つ2人だ。周囲の学生にはばればれだろう。そんなことも気にしないで、田所はビールをドローテアについでやった。 「いやはや、先日の若松でのご采配。お見事でした。まさか、海竜を餌付けしてしまうとは・・・」 「ふ ふ・・・。あれは私ではない。商店街の山下殿の発案なのだ。しかも、彼は海竜ショーを興業するそうだ。その興業で「ミランスビール」を売り出して、収益の 一部を我が領地のインフラ整備に充てるそうだ。その代わり、王都ガシリアナにある海竜に関する文献をよこすように要求してきた。さすがは商売人だ」 してやられたという感じで笑うとドローテアはグラスのビールを飲み干した。茶髪の防衛庁長官は彼女にまたビールを注ぐ。お返しに彼女からも返杯を受ける。 「しかし、ドボレクも今頃焦っておるだろう・・・・。せっかくため込んだ魔法力で召還した魔獣がまさか、海竜ダイダロスで、しかもあっさり餌付けされたとあってはな」 くすくす笑うドローテアにグラスのビールをぐいっとあおった田所が質問しようとした。だが、その時店員が注文していた軟骨揚げを持ってきたので、少し間をおいた。 「ドローテア様の斡旋で今、P3Cに魔道学校の生徒を搭乗させて全土の調査を行っていますが、この国は魔力を集中しにくいってどういう意味なんでしょう?いまいちわからないんですが・・・・」 「確かに、田所殿にはピンと来ないだろう。そもそも魔法とは、魔法力を必要とする。」 そう言ってドローテアは手のひらの上に火の玉を作り出した。田所はじめ、周囲の学生たちが驚きの声を出した。反応を確かめて笑いながら彼女はそれを引っ込めた。 「こ れくらいなら個人の資質でなんと言うこともない。だが、魔法の大きさと必要とする魔法力は比例する。また特例として、私と村山殿のように特定の行為によっ て行動を制限する契約魔法も存在するが、まあこれは例外だろう。簡単に言えば、派手な魔法ほど準備に時間がかかるわけだ。ましてや、ドボレクがやろうとし ている、ガシリアを一気に滅ぼす禁呪などは相当な準備期間と魔法力を必要とする。だが、この国にはそれを可能とするだけの魔法力をどういうわけか集中でき ない。」 「ましてや、ドボレクは祭りであんな大失敗をやらかした後だから、今すぐどうこうということはないってことですな?」 彼女の言葉を瞬時に理解した田所が膝を叩いた。彼の反応を見てドローテアも満足そうに頷くが、若い長官はさらに疑問を持ったようだ。 「で?ヤツがやろうとしている禁呪ってなんなんです?呪いか何かの一種ですか?」 その質問に大神官は箸で器用に挟んだ軟骨を口に放り込んで天井を見つめた。 「禁 呪にはいろいろある。巨大な石を召還してたたき落とすモノ。強力な雷で焼き尽くすモノとか・・・。禁呪は時に不発に終わることもある。我が国の研究ではそ の不発に終わった禁呪は別世界で威力を発揮したモノもあるかもしれないということだ。田所殿の世界にある伝説「インドラの矢」なぞ、案外太古の我が国とア ジェンダとの戦争の流れ弾かもしれぬ、ということだ」 流れ弾のとばっちりで古代とは言え、都市が消滅するなんて冗談じゃないと田所は思ったが、証拠がない以上彼女を責めることはできないし、証拠があっても彼女の遙か祖先のやった話だ。 「まあ、ともあれ。ドボレクが何をするにしても、この国にいる限り魔法使いみたいなまねはできないわけですな。後はヤツの持つ修復能力を何とかできれば・・・。逮捕は容易ってことですね」 ドボレクは魔法力を体内で循環させることで物理的攻撃のダメージを修復している。小倉のテロでそれは実際に目の当たりにされている。それでも、ドローテアは余裕の表情だった。 「それに関しては心配ない。手を打ってある、だが・・・・」 ここまで言って彼女の表情が少しかげった。 「ほとんど可能性はないが、ヤツが打つ手はまだあるのだ・・・」 2004年8月13日 10時02分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地 丸山と田島、岩村は田所を前にまるでいたずらをしかられる子供のようにしゅんとしていた。ソファーに座る3人に対して、窓の外の演習場を見つめる田所はぶっきらぼうに言った。 「どうでした?門司の花火は?」 明らかな皮肉に3人はますます縮こまった。先日の祭りでの大失態を言っているのは目に見えていた。田所は厳しい表情で振り返って3人を見た。 「今 回の件と前回の件だけでも、みなさんには幹部として辞表でも出してもらいたいところですが・・・、残念ながら、ガシリアとの折衝、ドボレク一派との実戦経 験が我が自衛隊にはほとんどない。引き続き、みなさんには今のポストでこれまで以上に経験を活かしてがんばっていただきたいと考えています」 その言葉に、思わず3人は胸をなで下ろした。だが、彼らの反応を予想していた田所はさらに語気を強めて言葉を続けた。 「ただし!これからは古い慣習や組織論は一切忘れていただきたい。あなたがたも今までの方法が、ドボレクには通用しないことがよくわかったはずです。今後は、ぼくやドローテア様の周辺の人々と連絡を密にして事に当たっていただきます!」 それだけ言うと田所は3人の反論を聞くこともなく立ち去った。 「まずいことになりましたな・・・・」 若い長官の去った部屋で一息ついた田島が口火を切った。 「これまでは、現場レベルでは重岡の責任。それ以上だと浅川先生の責任としてきましたが、これからはそうもいかなくなります。」 「腹をくくらねばいけないということか・・・」 この言葉に丸山も腕を組んで考え込んだ。 2004年8月13日 12時43分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地 第1独立偵察小隊の事務所には村山、バルクマン、美雪、津田三尉だけだ。交代で盆休みをとっているのだ。休みとは言え、ドローテアは隣のログハウスのテラ スで優雅にビールを飲みながら日光浴をしているだけなのだが。4人はともあれ、事務所で電話番だった。その電話が鳴って津田がだるそうに応対した。 「はい?・・・・え?うちはけっこうです!」 がしゃっと受話器を置いたとたんにまた電話が鳴った。ため息をついて津田がまた電話に出る。 「え?だから・・・・。融資は間に合ってますって!」 いらいらしながら津田は受話器をたたきつけた。美雪の持ってきたアイスコーヒーをブラックですすりながら、彼がぼやいた。 「まったく、自衛隊に融資のご案内なんて、いくら不景気でもふざけてますよ」 「ホント?そいつバカじゃないの・・・」 相づちを打ちながら、ソファーに座ったバルクマンに美雪がアイスコーヒーを出した。村山と津田と違い、明らかに量が多い。というか、彼のはジョッキだ。あからさまにえこひいきされた金髪の騎士が笑顔を美雪に向けた。 「あ、美雪さん。コーヒーくらいなら私がやりますよ」 「いいの!バルクマンのために入れたんだから」 目の前で繰り広げられるラブラブなトークに村山も思わず顔をしかめた。その時、また津田のデスクの電話が鳴った。ため息をつきながら彼が三度電話に出る。 「もしもし?え?だから融資はいらないって言ってるでしょ?あんた自衛隊に営業電話してどうすんの?」 ただでさえ暑い日に目の前でこれまたアツアツな光景を目にしてしまい、半分八つ当たりで乱暴に受話器を置いた津田は村山に肩をすくめて見せた。村山は彼を 一瞥するが、アイスコーヒーをすすりながらノートパソコンでネットゲームに夢中になっている。そこへまた電話が鳴った。 「もしもし?またあんた?だから融資はいらないって言ってるでしょ?え?違う?ドローテア様に代われ?あのねぇ・・・・。こっちは勤務中なんですよ。勤務中にファンからの電話は受け付けられませんから!」 さすがに受話器をたたきつけた津田のいらついた声が気になって村山も顔をあげた。 「どうしたんだ?」 「村山さん。さっきから変なヤツが電話してきて困ってるんですよ。融資の案内かと思ったらドローテア様に代われって。今度かかってきたらちょっとがつんと言ってやってくださいよ」 津田の訴えを聞いた村山は「まかせとけ」と言うと、美雪に電話の子機を持ってこさせた。しつこい金融屋の勧誘電話はなれっこだった。そう思ったとたん、電話が鳴った。 「村山さん、一発かましてください」 津田の期待に満ちた視線を受けて村山も余裕の笑みを浮かべて電話を取った。 「おい!いいかげんにしろよ。うちは融資もいらないし、ドローテア様萌えの電話もイヤってほどかかってきてんだよ!ふざけんじゃねーぞ!」 村山の先制攻撃に受話器の向こうのヤツも少したじろいだようだった。それを察知した村山はさらに追い打ちをかける。 「だいたいなあ。お盆休みの自衛隊に電話かける神経が間違ってんだよ。わかってる?こっちはあんたみたいなくだらない電話を待つために電話番してんじゃねーんだよ!このボケ!」 そう言って村山は一方的に電話を切った。「ほお」と言う感じで津田が見事な対応に拍手を送ろうとしたときだった。またまた電話が鳴った。 「ホントにしつけぇなぁ」 ため息をつきながら村山が電話を取った。今度は向こうに言うだけ言わせて切ってやるつもりだった。先ほどとは違って少し穏やかに応対した。 「ここまでしつこいのも珍しいけどさぁ。なに?何の用事?融資?ドローテアのファン?なんでもいいから言いたこと勝手に言ってくれ・・・。」 半分投げやりな村山の応対に受話器の向こうの声がようやく聞こえてきた。 「・・・貴様、このような無礼な物言い許さんぞ。わしを誰だと思っておるのだ」 受話器から聞こえてきた高飛車な台詞に村山は黙って美雪たちにジェスチャーした。人差し指をこめかみにくっつけてくるくる回している。 「はいはい。休日出勤の金融屋さんか、ドローテア萌え野郎でしょ?あんたもっと有意義なことに電話代使ったら?自分で電話切った後むなしくなんないか?」 半分暇つぶしモードの村山は面白がってなおも電話の主を挑発する。それにしびれを切らしたのか、電話の主は大声を出した。 「きさま!村山だな!わしの声を聞き忘れたか?数々の無礼な物言い!殺してやるぞ!東亜興産の、いや魔道大臣のドボレクとわかってのことか!!」 「ドボレクだと?」 その声に反応した村山はさっと表情をこわばらせた。わざと彼は大げさに叫んだ。自分に向けられたメッセージと察した津田は慌ててドローテアを呼びに走った。村山の仕事は時間稼ぎだけだった。美雪にジェスチャーして県警の連絡員に電話を逆探知させるように指示した。 「しかし、魔法の国の大臣様が電話とはな・・・。それにしてもおまえ、金持ってんのか?おまえの会社俺たちでぶっつぶしたもんなぁ」 「・・・・。」 その言葉に電話の向こうのドボレクは黙り込んだ。相当怒っているようだ。 「ドボレクから電話だと?」 思ったよりも早くドローテアがやってきた。これで彼の仕事は終わりだった。謹んで彼女に受話器を渡した。 「ドボレクか・・・。貴様のたくらみもこのままでは無駄に終わるようだな」 いきなりの勝利宣言。村山や美雪、津田にバルクマンははらはらしながらそれを見守っている。しばらく緊迫のやりとりが続いた。 「ほお・・・わかった・・・ガシリア王国大神官の名にかけて・・・」 そう言ってドローテアは電話を切った。彼女は大きくため息をつくと、心配するみんなに振り返った。今まで見たこともない厳しい表情だった。 「ドローテア様、いったい何が・・・?」 バルクマンの言葉を遮って彼女はソファーに身を投げ出した。そしてとんでもないことを口にした。 「今夜、ドボレクと決着をつける」 「なんだって?」 一同は唖然とした。しばらく、誰も口を利ける状態ではなかったが、どうにか津田が口を開くことができた。 「で、では。休みを取っている連中を大至急呼びましょう・・・・」 「その必要はない」 不愛想に答えたドローテアは立ち上がると、みんなに背を向けて窓を見やった。その言葉に津田は再び唖然とするほかなかった。代わってバルクマンが進み出た。 「では、私が護衛いたします」 「バルクマン、そなたもここに残れ。村山殿もだ。私だけで行く」 ほとんど突き放すような感じの彼女の言葉に村山が半分怒ったように反論した。 「どういうことだ?せっかくみんなでここまでやってきたのに・・・・」 窓を見ていたドローテアが村山に振り返った。その表情からは感情を感じることができなかった。 「どうもこうもない。私だけで行く。それだけだ。」 それだけ言うとドローテアはプレハブの事務所のドアを開けた。あまりの物言いに思わずかっとなったのだろう。立ち去ろうとする彼女に再び村山が叫んだ。 「なんだそれ?俺たちはみんな用無しってことか?もう利用価値もないから最後は自分だけでおいしいところ持っていくつもりか?」 村山の半分挑発じみた言葉にもドローテアは振り返ることはなかった。 「そう受け取ってもらってもかまわぬ」 話し合いの余地はない、と言わんばかりにドアが少し乱暴に閉じられた。今までに見たこともないドローテアの態度にしばし、一同は固まってしまった。不意に村山がテーブルを蹴った。 「なんなんだよ!あの態度は!もう一回話をしてくるぞ!」 「お待ちください!」 半分切れている村山をバルクマンが止めた。彼は美雪に合図して怒る村山と状況を把握できない津田をソファーに座らせた。そして大きくため息をついた。間髪入れずに村山と美雪がバルクマンに尋ねた。 「バルクマン、いったいどういうことだよ?」 「そうよ!今までのドロちゃんだったらなんでもあたしたちに相談してくれたのに、なんで今度だけ・・・」 当然と言えば当然の質問にバルクマンは少し答えるのにためらっているようだったが、やがて決心したように大きく深呼吸した。 「申し訳ありません。我々の国の風習をご存じないみなさんからすれば、ドローテア様のあのお言葉は侮辱とも受け取れるでしょう・・・。ドローテア様はドボレクの決闘申し込みを承諾されたのです」 騎士の言葉に3人は目をぱちくりさせた。その反応に彼らがよく事態を飲み込めてないと気がついたバルクマンがさらに詳しく説明した。 「つまり、今夜の件はドローテア様とドボレクだけのこと。まったく個人的なことなのです。他人の手出しは一切禁止されています。それどころか、国家の介入も・・・。ドローテア様が「ガシリア王国大神官の名にかけて」と言われたのが決闘の承諾と受け取られるのです。」 「鎌倉武士の名乗りを上げての一騎打ちみたいなものですな」 バルクマンの言葉に津田が少し理解できたようだ。まだ考え込んでいた村山は不意にはっとした。 「お い。でもこのタイミングでドボレクのヤツがドローテアにそんなことを申し込むってことはだ。にっちもさっちもいかなくなったドボレクの作戦じゃないのか? 禁呪を使うだけの魔法力も残っていない、テロを起こそうにも手駒も金もこっちで抑えた。ヤツが巻き返すのに一番の邪魔者はドローテアだ」 センセーの言葉に美雪もドボレクの考えていることがわかったようだ。 「つまり、ガシリアの騎士や神官だったら断るに断れない決闘を申し込んで、ドロちゃんを殺しちゃえば、ドボレクはじっくり作戦なり、魔法力を集めることなりできるわけね!」 「プロレスで言えば場外乱闘みたいなもんじゃないですか」 津田もようやくみんなの話に追いついたようだ。ドローテアはドボレクの思惑がわかった上で、この決闘に引っぱり出されたわけだ。 「だったら、なおさらなんで俺たちに相談しないんだよ・・・・」 彼女を取り巻く状況はわかったが、それでも納得行かない村山が思わずぼやいた。それにはバルクマンが少しの間も置かないで答えた。 「村 山様。それは、ドローテア様がみなさんのことを大切に思っているからに他なりません。決闘を申し込まれて受けないわけにはいかないドローテア様の事情もあ りますが、それ以上に相手はドボレクです。これまでのことを踏まえてどんな卑劣な罠を準備しているかわかりません。だからこそ、単身で行くと強固に言って いるのでしょう。」 それを聞いた村山はさっきまでの怒りが収まっていくのを感じた。「素直じゃないなあ」と独り言を言うと、ソファーから立ち上がった。 「美雪、重岡と尾上を呼び出すんだ。津田は他の隊員をかき集めて連隊長に報告しろ」 「はい、センセー!」 「了解!」 2人は村山の意図を察するとぱっと笑顔を浮かべてそれぞれのデスクの電話に飛びついた。それを見たバルクマンが慌てたが、村山は彼の肩をぽんぽんと叩くだけだった。 「村山様!お気持ちはわかりますが、これではドローテア様の名誉に関わります!」 決闘を受けた者が他者に支援を請うことはこれ以上にない不名誉に値するというのだ。バルクマンの理屈ももっともだが、村山たちはそんなこと関係ない。 「わかってるって。そういうややこしい問題は、俺たちより頭のいい人に考えてもらおう。おまえはひとっ走り、田所さんの事務所に行ってくれ。今日は公務は午前だけで事務所にいるはずだ」 2004年8月13日 22時58分 北九州市若松区頓田 グリーンパーク南ゲート駐車場 花と緑の博覧会のために作られた巨大な緑地。その入り口にドローテアはいた。乗り付けたタクシーも早々に返して、1人。持ち込んだ剣を握りしめていた。昼 間、大声で抗議した村山やびっくりするバルクマンや美雪、津田のことが思い出された。休みを取っている重岡や尾上は思いもよらないことだろう。 だが、こうするしか彼女には選択肢はなかった。うすうす予想はしていたがまさか、ドボレクから彼女たちの世界のルールに則った決闘を申し込んでくるとは 思っていなかった。当然、彼女は断ることはできないし、大切な仲間をドボレクが自信満々で待ちかまえる罠に放り込むわけにもいかなかった。 「きたか・・・・」 駐車場のゲート、その奥から黒い影が現れた。それが誰であるかはドローテアにとって確かめる必要もない。素早く剣を抜くと慎重に身構えた。その影が万感の思いを込めて叫ぶのが聞こえた。 「貴様のせいで計画が台無しだ!殺してやるわ!」 月明かりの下、抜き身の剣だけがはっきり見えた。急速に間合いを詰めるドボレクにドローテアは少し下がって自分の間合いを保った。 「それはこっちの台詞だ・・・・」 素早い動きでドローテアが剣を突く。が、ドボレクもそれをかわして大きく剣を振った。頭を傾けてドローテアはそれをよけるが、自慢の金髪が数本、彼の剣で宙に舞った。 「死ね!死ね!」 ドボレクは力任せに右手の剣を打ち込み始めた。ドローテアも冷静にそれを受けかわすが、力任せの強打にじりじりと右に移動せざるを得ない。ひときわ大きなドボレクの強打を受けた弾みで踏み出した彼女の右足が何かを踏んだ。 「あ・・・・」 それが何かはドローテアにはすぐにわかった。とたんに身体中から力が抜けていく。握っていた剣も力無く彼女の手から落ちた。 「ド、ドボレク・・・。謀ったな・・・・」 ド ローテアが踏んだのは封印の魔法の一種、それを発動させる魔法陣だった。これを踏むと魔法はもちろん、物理的な動きも制約される。やはり、ドボレクはいろ いろと罠を仕掛けていた。予想の範疇だったが罠にかかってしまってはどうにもならない。身動きのとれない大神官を見てドボレクが構えを解きながら笑った。 「ふははは!わしが何の準備もなしに貴様に決闘を申し込むと思ったか?」 「さっさと殺せ」 開き直るドローテアをドボレクは意地悪そうな笑顔を浮かべて見やった。 「貴様にはさんざんわしの計画をじゃまされたからな。騎士らしく名誉の死など与えると思ったか?貴様には考えつく限りの屈辱的な死を与えてやろう。そして、貴様のいなくなったこの国でゆっくりとガシリアを滅ぼす禁呪を準備させてもらうとしよう・・・・。おい!」 そう言ってドボレクはさっきまで隠れていた茂みに声をかけた。しかし、誰も応じる気配がない。舌打ちして再びドボレクはドローテアの喉元に剣を突きつけたまま、声をかけた。 「おい!」 やはり反応はない。しびれを切らしたドボレクは茂みの方を振り返った。その時、強烈なサーチライトがドボレクの視界を奪った。 「おまえが呼んでるのはこいつらのことか?」 ドボレクにとって聞き覚えのある声と共に、茂みの奥から後ろ手に手錠をはめられた東亜興産の社員が3名、自衛隊員によって引き立てられた。連中は福岡での 手入れを免れてドボレクと一緒に逃亡した連中だった。同時に、完全武装の自衛官が彼らの持っていた日本刀や拳銃を押収していた。決闘というのは名ばかり、 危なくなったらドローテアに襲いかかるように潜ませていたのだ。 「なっ、なに?」 ドボレクの驚きに答えるように、彼の周囲360度から強烈なサーチライトが降り注いだ。広い駐車場で対峙していたドボレクとドローテアは真昼のような明るさの光に照らし出される格好となった。 「アジェンダ帝国魔道大臣ドボレク!ここまでだ!」 拡声器を通した重岡の声を合図に駐車場を囲むきれいに刈り込まれた植木を壊しながら続々と89式装甲戦闘車、96式装輪装甲車が乗り込んできた。それらか ら降車した数十名の自衛隊員が次々とドボレクに89式小銃を向ける。びっしりと彼を包囲した隊列から重岡と村山が歩み出た。 「ど、どうして、そなたたちがここにいるのだ?」 金縛りにあったような状態のまま、ドローテアが驚きの声をあげた。当然、彼らには決闘の場所など教えるはずもない。どうして彼らだけでなく、こんな大部隊がここに集結しているのか。彼女には理解できなかった。 さらに、聞き覚えのある爆音がドローテアの耳に聞こえてきた。ほとんど動かない頭を動かして空を見ると、ガルシア大尉率いる海兵隊のCH-53が上空でホバリングしているのが見えた。 「行け!行け!行け!ぐずぐずするな!野郎ども!」 ホプキンス曹長に率いられた海兵隊がヘリから下げられたワイヤーを伝ってわらわらと降下して自衛隊の隊列に加わった。最後に降下した完全武装のガルシアがにこやかにドローテアに向かって叫んだ。 「我が太陽、ドローテア!君の最大の危機と聞いて取るモノも取らずに駆けつけたよ!ちなみに、沖では日米のイージス艦がそこの指名手配者をロックオンしているから、心配しないで」 「村山さん、海兵隊はちょっと余計だったんでは・・・・。それにロックオンって俺たちまで吹っ飛ばされちゃいますよ・・・」 津田がこっそりと村山に耳打ちした。たしかに、かなり大げさになってしまった。村山も状況を見て否定することはできなかった。今やドボレクの周囲は装甲車 に100名近い普通科隊員。後方には戦車、上空には海兵隊のヘリまでいるのだ。少し考えたがあっけらかんと村山は津田に答えた。 「うーん、まあいいだろ?この際だから」 突然の過剰なまでの応援に驚きを隠せないドローテアは集まったみんなに向かって叫んだ。 「これは私とドボレクの問題だ。手を出すな!」 「そうはいかないんですよ」 彼女の言葉に、隊列の奥から茶髪にメガネ。防衛庁長官の田所まで現れた。またしても予期もしない人物の登場に大神官の目はまんまるになった。 「ド ローテア様、この国には決闘罪っていう法律がありましてな。私的な決闘をすることを禁じているのです。つまり、ドボレクにとってこれまでのテロ行為などと 関係なく、ドローテア様と決闘することはそれ自体犯罪なんです。ドローテア様の名誉は我々の介入が原因で傷つくことはありません。なにしろ、我々は「偶 然」この決闘に遭遇しただけですから」 「偶然だと?何を屁理屈を言っておるんだ!!」 ドローテアの首に剣を突きつけるドボレクは思わず叫んだ。 「貴様らの法律などどうでもよい!だが、今大神官を殺されるとわしを捕捉することはこの先困難になるぞ。わしには貴様らの銃弾も効かない!どうする?」 予想されたドボレクの言い逃れを聞き、村山は一緒にいればいいのに、近くの茂みに隠れている尾上に手で合図した。間髪入れずに銃声が響いて、ドボレクがドローテアに向けた剣が根元から砕けた。 「くそっ!」 次の瞬間、悪態をついたドボレクの肩にも銃弾が命中して、彼はあおむけに倒れた。 「・・・・バカなことを。すぐに回復するというのに・・・・。」 血が流れているにもかかわらず余裕の笑みを浮かべるドボレクを田所は彼以上に不敵な笑みを浮かべて見つめていた。 「あなたの回復力は確認済みだ。ちゃんとこっちも手を打たさせてもらってますよ・・・。」 「なっ!」 思わずドボレクは驚きと痛みで声をあげた。傷が回復しないのだ。驚くドボレクに村山が笑いながら言った。 「特製のFMJ弾だ。正式名称、フル・マジック・ジャケット弾。ドローテアが用意してくれていたんだけどな。ドローテアの魔法が込められた弾丸だ。今までみたいにそう簡単に回復はしないぞ」 村山の言葉通り、ドボレクの受けた傷からは血がどくどくと流れている。それを認めた自衛隊員は慎重にドボレクに近寄った。重岡が倒れ込むドボレクに向かってメモを見ながら宣言した。 「魔 道大臣ドボレク、決闘罪および殺人未遂、銃刀法違反の現行犯。ならびに、殺人罪、騒乱罪、殺人教唆、利息制限法違反、出資法違反、政治資金規制法違反、選 挙管理法違反、傷害罪で逮捕状が出ている。なお、リーガロイヤルホテルより、器物損壊、威力業務妨害で、博多の事務所のオーナーから有印私文書偽造、詐欺 罪でも告発されている。あ、それと在日アメリカ海軍法務局からも殺人、殺人教唆で告発状が届いている。」 重岡の合図でバルクマンに率いられた数名の自衛隊員が特殊な車両でやってきた。一見、普通のトラックだが荷台の部分がちょっと違う。大きな檻があり、その四隅にはへんてこな石がガムテープでぐるぐる巻きにされている。 「ふ、封印の石・・・」 それを見たドボレクが思わず肩を押さえながらつぶやいた。この石に囲まれれば魔法力は失われてしまう。ドボレクにとってはチェックメイトの状況だった。それを見て村山が得意げに笑った。 「バルクマンがいざという時のために持っていたんだがな。これに詰めておまえはガシリアに連行だ。じゃあな」 「く、く、くそぉぉ・・・・」 着剣した89式に囲まれてドボレクがその檻に入ると、金縛りにあったようなドローテアの身体が地面に崩れ落ちた。独立偵察小隊の面々が駆け寄った。 「まったく・・・よけいなまねをしてくれたものだ・・・」 ぐったりと地面に座り込むドローテアが集まった面々の顔も見ないでつぶやいた。それに対して、美雪が何か言おうとしたが、村山がそれを制した。 「悪かったな。偶然、通りかかった俺たちが待ち伏せする東亜興産の連中を見つけたもんだからな。そしたらドローテアがやられそうになっているから、偶然助けただけだ。そうだよな?先生?」 話を振られた田所がメガネの位置をなおしながら笑う。 「その通りです。ぼくもホントにたまたま通りかかっただけなんですよ。」 田所に肘でつつかれた津田と伊藤も次々と見え見えの言い訳を半笑いで述べていく。 「俺たちもたまたま89式装甲戦闘車でドライブしていただけなんですよ。」 「そうっす。まさか、こんなところでドローテア様とドボレクが決闘をしているなんて知りもしなかったです」 拘束したドボレクを連行するように命じていた重岡までも、白々しく言った。 「まったく、偶然ですよ。たまたまこの車両の運行試験をしていただけなんですから!」 ここまで徹底してあからさまで見え見えの言い訳をされたドローテアはバルクマンの肩に捕まりながら笑うほかなかった。彼らがことさらに強調する「偶然」も彼女の名誉を守るための方便と気がついていた。 「なるほど、私もまだまだ運に見放されてはいないようだな・・・・」 彼女がそう言ったときだった。たいして出番もなかったガルシアたちがヘリに乗って引き上げ始めた。強烈な風が一同を襲った。 「さらばだ!ドローテア!我々も実は偶然、幸か不幸か、効果的な降下訓練をしていただけなんだよ!」 わざわざマイクで強調する必要もない駄洒落を叫びながらガルシアは飛び去った。重岡が飛び去っていくヘリを見ながら思わずつぶやいた。 「ちょっとしゃれにしては語呂が悪いな・・・」 2004年8月16日 18時19分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地 盆明けの事務所は少しばかり雰囲気が違っていた。普段は事務所にあるプラズマテレビが延長コードで外に出されていた。その前には100名近い独立偵察小隊 の面々がいて、某公共放送のテレビ報道に釘付けになっている。ニュースセンターのアナウンサーが臨時ニュースを読み上げた。 「えー、本日午後。アジェンダ帝国はガシリア王国軍に無条件降伏を申し入れた模様です。あ、たった今、ガシリア王都、ガシリアナ駐在の自衛隊から確認がとれました。アジェンダ帝国はガシリア王国軍に無条件降伏を申し入れ、ガシリア王国はこれを受け入れたそうです」 集まった隊員から歓声があがった。用意された演台にドローテアが登ると、たちまち隊員たちは沈黙して彼女の言葉を待った。 「諸君、長い者は数ヶ月。本当にご苦労だった。ドボレクも逮捕され昨日ガシリアナへ連行された。そして、今日。戦争も終わった・・・・」 ここでドローテアは言葉を切った。少しうつむいたまま数秒沈黙したが、すっと顔をあげた。 「実は、私に本国へ帰国命令が出た。」 思っても見ない言葉に整列した隊員がどよめいた。同席している村山も重岡も知らない話だった。美雪が驚いたようにバルクマンを見た。当然、ドローテアが帰る以上彼も同行せねばなるまい。 「すいません、美雪さん。どう言えばいいかわからなくて・・・・」 肩をすくめるバルクマンに美雪が思わず駆け寄って抱きついた。そんなことが起こっている間もドローテアの言葉は続いた。 「私とて、苦楽を共にした諸君と離れるのは断腸の思いだが、ヴェート王のご命令とあっては応じるほかない。だが、これだけは言っておきたい。諸君は最高の部隊で、兵士・・・・、ではないな。最高の警察官、自衛隊員たちだ。本当にありがとう・・・」 泣きながら彼女の言葉を聞いていた尾上が半分裏返った声で叫んだ。 「ガシリア王国大神官であり、我が部隊永遠の指揮官。ドローテア様に敬礼!」 自衛隊史上、これほどまでに敬意のこもった敬礼はないであろうというくらいの敬礼が尾上の号令でドローテアに捧げられた。 2004年8月16日 20時36分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊駐屯地 事務所内で主だった面々が互いの労をねぎらっていた。半分、ドローテアとバルクマンの送別会みたいな感じだったので、雰囲気はなごやかなものだった。 「ま、まあ・・・・、尾上二曹。そう泣くでない・・・・」 ずーっと泣きっぱなしの尾上を苦笑いしながらドローテアが慰めている。無理もない。尾上にとってみれば、彼女はゲームの画面から飛び出した理想の司令官なわけだ。 「しかし、ちょっと急すぎやしませんか?」 最初は疫病神だった存在だが、今や自分の守り神に等しい存在になったドローテアに重岡が話しかけた。なにしろ、経過はともかく彼女がいなければ、彼の昇進もなかったのだから。 「こればかりは、ぼくの権限でもどうにもなりませんが、もうちょっとこっちでゆっくりできないものですか?」 メガネに茶髪の田所も残念そうに重岡の後に続いた。 「うむ・・・。正直名残惜しい部分はある。だが、永遠の別れではない。なにしろ、あやつらがいるからな」 笑いながらドローテアは、バルクマンに手紙と携帯電話を渡す美雪を見た。近々サラミドでも携帯電話が通じるようになるそうだ。と、彼女はいつものソファーでビールを飲む村山に声をかけた。 「村山殿。帰る前に、そなたと交わした契約魔法を解除しなければいけない」 その言葉にうれしそうに村山は飛び上がった。 「おおお!そうだな!」 村山の喜びとは裏腹に、ドローテアは少々顔をうつむけながら言葉を続けた。 「ついては・・・・、今から私の部屋へ来てはくれないだろうか?」 ようやく、下半身の解放をしてもらえる村山は様子のおかしいドローテアに気がつかないようだった。喜々として立ち上がるとビールを一気に飲み干した。 「・・・・、ではバルクマン。今日はみんなと一緒に楽しく過ごすがよい」 それだけ言うと彼女は津田や伊藤に軽く挨拶すると村山と事務所を後にした。おかわりの缶ビールを渡しながら重岡がバルクマンに尋ねた。 「しかし、契約魔法の解除ってどんなことをするんだ?どうせならみんなの前でやればすむだろうに・・・」 横にいる美雪と真顔で質問する重岡を交互に見ながら、バルクマンは気まずそうに顔をしかめていたが、2人にそっと顔を近づけるように言った。 「実は、契約魔法の解除は契約時と同じ行為をする必要があるのです・・・・」 「えっ?つまりそれって・・・・」 驚いた美雪が言葉を発しようとしたのを慌てて重岡が止めた。涙をようやく拭き終わった尾上が3人の会話に興味津々だったのだ。 「なんです?契約魔法の解除って・・・・」 近寄ってくる尾上を重岡が大慌てで止めた。素早く財布から五千円札を出すと彼に渡した。 「いいから、ちょっとこれで酒買ってこい。な?」 いぶかしげに事務所を出ていく尾上がドアを閉めるのを確認して3人はため息をついた。きょとんとする、田所、伊藤と津田に事情を話した重岡は大まじめにみんなに言った。 「尾上だけには言うんじゃないぞ。よくてショック死。最悪、村山を撃ち殺しかねんからな」 2004年8月18日 12時36分 北九州市門司区門司港 門司港レトロ前 夏の門司港には多くの人々が集まっていた。沖には輸送艦「おおすみ」を始め、海自、米軍のイージス艦が錨を降ろしている。岸壁では日米合同の軍楽隊の演奏が続いている。 「浅川殿、いろいろと面倒をおかけした」 ドローテアが浅川と握手をかわした。まぶしいくらいのフラッシュがたかれる。県知事改め、暫定政府首班もにこやかに彼女と握手を交わす。 「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」 彼女は続いて在日米軍のワドル大佐と向き合った。在日米軍は休戦後のアジェンダにガシリア軍と共に平和維持軍として進駐するのだ。自衛隊が進駐するのはや はりいろいろと難しいようだった。となれば、当然ガルシアもおつきあいが続くことになる。ワドル大佐の後ろに控えるガルシアが軽くウインクした。 「さて、重岡殿」 津田や伊藤と共に整列した第1独立偵察小隊の面々にドローテアは向き直った。直立不動の姿勢をとる重岡に彼女は右手を差し出した。 「思えば重岡殿に一番迷惑をかけたかもしれないな・・・・。いろんな意味で・・・・」 そう言って彼女はちらっと後方を見た。バルクマンと最後のお別れをする彼の娘、美咲がいた。 「ちゃんとお手紙書いてね」 「はいはい・・・。お約束ですからね」 笑顔で美咲の頭をなでるバルクマンに重岡の妻、祐子が申し訳なさそうに頭を下げる。 「本当に最後の最後まで申し訳ありません・・・」 そう言う彼女に、「バル様」はさわやかな笑顔を浮かべて答える。 「いいんですよ。美咲殿は私の大事な「おともだち」ですから」 津田と伊藤に率いられたびしっと敬礼する独立偵察小隊の面々を笑顔で見やりながらドローテアは隅っこにいる村山と美雪に歩み寄った。 重岡には丸山、田島、岩村が近寄っていた。今までに見たここともないような表情で重岡の手を取った。 「重岡君、君ならばこの困難な任務を完遂してくれると確信していたぞ!」 「さよう!私もこれで晴れて総監部に帰ることができるというモノだ!」 「まったく、丸山連隊長と田島三佐の人物眼はたいしたものですな!」 それぞれがそれぞれに手前勝手な賛辞を述べてドローテアに続いた。重岡は深い深いため息をついた。 「ドロちゃ~ん!」 半泣きの美雪が歩み寄ってきたドローテアに抱きついた。最初は最悪の関係だった2人だが、いろいろあるうちにいい友達になっていた。 「泣くでない、小娘。ちゃんとメールは送るから」 最後にドローテアはいつものよれよれのスーツ姿の村山と向かい合った。照れくさそうに頭をかく彼をまっすぐに見やった。 「・・・・村山殿。世話になったな」 そう言われた村山は目をそらす。そんなセンセーを見て思わず美雪が何か言おうとした。が、その時海自の幹部がドローテアを迎えに来た。 「出航の準備ができました。ランチにお乗りください。」 何も答えない村山に、少し寂しそうな笑顔を浮かべるとドローテアは岸壁に接岸したランチに向かって歩き出そうとした。美雪が思わず、村山の腕をつついた。彼女に続いてバルクマンもランチに向かって歩き始めた。 「あ・・・おい!ドローテア!」 ランチに乗り込もうとしていたドローテアにようやく村山が声をかけた。照れくさそうに頭をぽりぽりしながら、ようやく彼は言葉を発した。 「その・・・、あっちに戻ったら佐久間のじいさんによろしくな・・・・。」 「わかっておる」 その言葉にドローテアは満面の笑みを浮かべてランチに乗り込んだ。花火があがり、独立偵察小隊の面々が万歳三唱を始めた。動き出したランチからバルクマンが美雪に手を振っている。手を振り返しながら美雪がぽつっとつぶやいた。 「センセー、行っちゃったね・・・・。ドロちゃんに言うことがあったんじゃないの?」 周囲のにぎやかさとは正反対の美雪の言葉を村山はただ、「いや、別に・・・」と返しただけだった。
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856 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 55 02 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 1/7 ――1 ガルム大陸南部。 特に大内海に面した地方は、枯れ果てた大地が広がる場所であり、そこでは僅かばかりの人間が、 肩を寄せ合って生きた場所であった。 正に、辺境の呼び名こそ似つかわしかった。 その状況が一変したのが、“帝國”の登場である。 “帝國”は、並の中小国は勿論の事、他の列強諸国より遥かに数多くの、そして大量の鉱物資源を 必要としていた。 “鉄の国” そう一部では揶揄された程であった。 そしてそれが、この地方の状況が一変した理由であった。 レアメタル。 希少金属が、この地方の地下に眠っていたのだ。 一変は急速であり、劇的であった。 “帝國”が大規模な予算を投じて、インフラを整備したのだ。 それは、地権を持った国家(と呼べる様な組織)も無かった為、好き勝手が出来たのが大きいだろう。 苦労して生活していた旧住民達には、飴(雇用)を与え、その生活様式も尊重する事で恭順させ、 万難を排しての開発であった。 帝國軍が帝國人が、そして獣人及び“帝國”への忠誠を誓った品行方正な流民の一族もが入植したのだ。 その地方の変わり様は、天変地異にも評される程であった。 繁栄。 旧来の住民が、その自らの語彙から選んだ都市名、幸福を呼ぶ蛙神様のザベィジの名を与えられた “帝國”の直轄都市は空前の繁栄をした。 無論、過去形である。 他の全ての“帝國”と関わった都市地方と同様に、この都市も又“帝國”の消滅と共にその繁栄の 終焉を迎えたのだ。 消滅しなかったのは、シュベリン王国と同じ理由であった。 侵略する旨味の無さである。 繁栄していたにも関わらず、おかしな話ではあるが、如何せん“帝國”の消滅と共に、ザベィジを 支えていたインフラシステムが崩壊したのだから仕方が無い。 鉱山都市としての機能のみが優先され、農業等の食料生産に関わる分野は御座なりにされていたのだから、 “帝國”の物流システムによって食料が入って来なければどうなるかは、火を見るよりも明らかであった。 実際、“帝國”消滅から数年後に 大協約 から派遣された調査隊が見たのは、巨大な建物の跡と、 僅かばかりの人間の姿だけであった。 そこに、過日の繁栄栄華を感じさせるものなど無かった。 こうして、“帝國”によって生み出され、そして“帝國”の消滅に運命を共にしたザベィジが、 再び歴史の表舞台に登場するのは、又、日本によってであった。 “帝國”では無い。 平成の、日本。 平成日本も又、この地方へとレアメタルを求めて進出したのだった。 木造平屋。 それも、敷地面積は庭園を含めても300坪程度の日本式建築物。 風では無い、準である。 “帝國”支配時代に建築されたものだった。 建材がガルム大陸産のもので構成されていたお陰で、“帝國”消滅後もこの世界に残っていたのだ。 60年の歳月を越えた木造建築らしく、風情はあるが風格は無い。 それが平成日本の、ザベィジ特別領事館だった。 大協約 と正面から立ち向かい、世界的にも、新しき列強と目される平成日本の出先機関にも関わらず、 余りにも侘しい佇まいだった。 が、それも仕方の無い事かもしれない。 何故なら、ザベィジは都市と自称こそしてはいたものの人口3000人と、町に毛の生えた様な規模しか 無いのだから。 この世界に於いては帝國人――日本人である事の証明とも言われている背広、その襟元をラフに 緩めた、やや小太りの男が腕組みをして領事館の庭園を眺めている。 857 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 55 43 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 2/7 庭園は、日本から来た職人によって手入れされ、小さいながらも見事な庭ぶりを示していた。 だが男の目は、庭を見ていない。 冴え冴えとした夜気を含んだ風が流れるが、男は微動だにしない。 「お体に毒です………」 凛とした、だが何処かしらに甘やかな響きを持った言葉と共に、厚手のコートが男の背に掛けられた。 男の背後に、いつの間にか細身の人影――ダークエルフ族の女性が立っていた。 さっぱりとした暗色系のスーツと、纏め上げられた髪が、秘書の風情を漂わせていた。 否。 秘書と言えるだろう。 外務省特別派遣情報官。 DEとも略称されるそれは、外地に派遣される大使級の人間の下へと配置させられる、情報収集及び 分析を担当する者の事であった。 そのDEたる彼女が付いている男は、無論外務省の官僚、ザベィジ領事であった。 名は大野と云う。 「すまない」 「いえ………………」 まだ若いとも言える大野ではあったが、その表情には険しさがあった。 だからだろう。 ダークエルフ族の特別派遣情報官であるアスラは、何も言えず、その後ろへと佇んでいる。 アスラが何も言えないのには理由があった。 それは、大野が庭を眺める様になった理由でもあった。 ダークエルフ族への支援。 より正確には、ザベィジの領土と見られている場所の南にある国家、ガァバン王国で隠れ住んでいた、 ダークエルフ族の保護であった。 文明の辺境とも揶揄されれる程に列強諸国から遠く離れ、又、貧しさ故に 大協約 からも相手に されなかったガァバン王国は、それ故に純粋なエルフの崇拝国であった。 世界の守護者、文明の抑止力。 そんなエルフ族の宣伝文句に、素直に酔いしれている様な、純朴な国であった。 だからなのだ。 平成日本の、“帝國”の復活を聞いたガァバン王国の民衆は、邪悪な帝國の手先である獣人族や、 ダークエルフ族狩り立てようとの機運が盛り上がったのは。 ダークエルフ懲戒隊。 そう自称する民兵組織を組織し、さして広いとは言えないガァバン王国の領土の津々浦々を民衆は、 松明片手に駆け回ったのだ。 竹の任務である21名のダークエルフ族の保護も、この自警団によって隠れ里を発見されてしまったが為であった。 そして大野。 平成日本のザベィジ領事たる彼は、ザベィジ政府(実態としては、町役場程度の規模や能力しか持たない)に働きかけ、 ザベィジへと駐留する自衛隊部隊の、領内自由移動、及び展開を認めさせたのだった。 現在、ザベィジへと駐留するのは第404独立警備大隊。 これは完全に自動車化された300名規模の小規模な部隊であり、国外の、重要拠点へと政府組織を 展開する際に同行警備する為に新編された部隊であった。 尚、未舗装地の多い辺境へと派遣される事の多いこの部隊が、装軌(キャタピラ)では無く機動力に劣る、 装輪(タイヤ)駆動方式の装甲車を装備している理由は、兵站の問題であった。 不整地での踏破能力に優れても、整備に手間の掛かる装軌が忌避されたのだ。 付帯としてもう1つ。 派遣先に於いて交戦するであろう相手の攻撃力が、薄い装輪装甲車の装甲でも十分に対応可能と云うのも 考慮されての決定であった。 この第404独立警備大隊でも精鋭の、009式装輪装甲車を定数装備する第1中隊が、ザベィジ政府の 役人の同行を受けてザベィジ領南部(と、一般に認識されている辺り)へと展開を行っている。 名目としては、平成日本の生命線、日本の国内外の資源開発に関わる問題を一手に引き受けている 国外戦略資源庁による資源調査、その警備であった。 「………我々は無力なのだな」 誰も聞かせる訳でも無く呟く大野。 大野の無力感は、ダークエルフ族の保護に回せた部隊規模の小ささに起因していた。 独立警備大隊の1個中隊は2個小隊各40名の80名である。 政府職員の保護警備と云う名目で動かせたのは、たったそれだけだったのだ。 858 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 56 16 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 3/7 それは野党によって提唱された軍の暴走等への抑止措置であった。 日本帝國陸軍時代の軍事組織の暴走を念頭に置いて主張されたソレは、一定の正論であり、政府も 容易には退ける事が出来なかったのだ。 (尚、野党の極一部では、独立警備大隊の行動を監視する人間を部隊に随行させるべきとの意見を 述べる者も居たが、誰も好き好んで危険地帯に行きたがらなかったし、そもそも政府としても、 自らの自衛隊への統率能力への懐疑を好ましいとは思わず、又、自衛隊としては、その様な政治将校 紛いの代物を受け入れたく無いと主張。 こうして3者の利益が一致した結果、この意見は表沙汰に成る前に、提唱者の緊急入院と云う形で、 幕引きが行われた) ガァバン王国でダークエルフ族を狩っている民兵組織が、1000にも手を届こうかと云う規模である 事を考えれば余りにも小勢であり過ぎた。 又、如何に第404独立警備大隊第1中隊がザベィジ領内の行動自由を得たとは云へ、ガァバン王国の 領土内にまで進出し、追われているダークエルフ族難民を救助をする事は出来ないのだ。 精鋭の西部方面普通科連隊から分隊が、その脱出支援として極秘裏にガァバン王国へと侵入してはいたが、 如何せん8名と、極め付けに小規模な戦力なのだ。 状況を気楽に見る事など出来る筈も無かった。 護るとの約定を護りきれず、又、同胞を危険と判っても少規模でしか投入出来ない。 他の手段は無い。 如何にダークエルフ族の存在が平成日本にとって有為なものであるとは云え、その為に戦争勃発の 危険性を看過し、大兵力を国交の無い国へと展開させる訳にはいかないのだ。 何よりも平成日本の国益を、感情に流されず冷静に判断出来る大野は、正しい外務官僚であった。 だが同時に個人としての大野は、内心に忸怩たるものを感じているのだ。 そんな大野に、そっと頭を下げるアスラ。 彼女は大野の内心、その様子を詳細に理解していた。 ダークエルフ族の保護に、万全と呼べる状態で望めない事に不満を抱いている事を。 だが、とアスラは思う。 この人たちは知らないのだ、と。 ダークエルフ族がどれ程の感謝を、日本人へと抱いているかを。 大野は、日本人たちは万全でない事を悔いてはいるが、それがどうしたのだ。 今までダークエルフ族に手を差し伸べてくれたのは“帝國”と、この平成日本だけなのだ。 相互支援の約定は交わした。 だがそれは、平成日本が困窮していたからこそ成り立った約定だ。 今のダークエルフ族には往時の、“帝國”を支えていた頃の力は無い。 情報を収集する事も、破壊工作を行う事も、全ての力が衰えていた。 世界を敵にし、狩り立てられていたのだから当然だろう。 情報分析能力こそ往時とは比べ物にならない程に向上してはいたが、それは弱者の生き残り技術であり、 その程度で世界を、 大協約 を、エルフを敵に回してでも、護る価値は無いのだ。 平成日本がどれ程に誠意をもって外交しようとしても、ダークエルフ族と手を組む“帝國”と同じ輩だと、 非難され、エルフへの信仰染みたいものを持つ国(例えばガァバン王国)と国交を結ぶのは困難なのだ。 にも関わらず、平成日本はダークエルフ族を見捨てない。 それどころか、たった20名程度のダークエルフ族を救う為にも、全力を尽くそうとしてくれる。 危険を推しても助けようとしれくれる。 それがどれ程に嬉しい事か。 だがアスラはその思いを口にはしない。 出来ない。 大野は男なのだ。 男が内心で思う事を、容易に口にすべきではないと、強く思うが故にだった。 だからこそ、そっと頭を下げたのだった。 ――2 深い森。 その光の無い、全くの暗闇をいく影の群れ。 人影、40近いその影は、人影であった。 言うまでも無く、ガァバン王国の辺境で息を潜めて暮らしていたダークエルフ族と、その護衛の面々だ。 一群で、真ん中に位置する難民のの大半は、極めて細い体躯であった。 青年や壮年と呼べる世代の者は居ない、老人や女子供が殆どと言うのも理由にあったが、そもそも、 食料状態の悪さがあった。 ボロを着て、やせ衰えた体を支えあって進むダークエルフ族。 その前後には、しっかりとした体格の男たちの姿があった。 ダークエルフ族の部隊と、陸上自衛隊西部方面普通科連隊(WAiR)の分隊による誘導と護衛の部隊だ。 859 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 56 47 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 4/7 軽やかとは言い難い動きで、道なき道を進む一同。 どれ程に進んだ時だろうか。 ふと、先頭をゆく男が片腕を上げた。 小休止、だった。 やや開けた場所にめいめいが腰を下ろし、休息を取る。 追われる立場ゆえに、火を使えず、暖を取ることが出来ない。 疲れ果てた避難民達は、身を寄せ合って寒さを凌ぐ。 だが、護衛役はそうそうゆっくりとはしていられなかった。 「どうやら、道は塞がれつつある様です」 そう告げたのはダークエルフ族の男性、エル。 梟を使い魔として飛ばしている彼が、この一群の目であり耳であった。 エルの表情には疲労の色が濃い。 自らの体内の魔力をも使い魔に注ぎ、常に梟を空へと飛ばしているのだから当然であった。 WAiRの分隊指揮官と、ダークエルフ族の護衛部隊の指揮官、そして難民たちのリーダーの前で、 エルは情報を説明していく。 ガァバン王国からザベィジへのルート、その大半に篝火が見える事を。 それぞれが数十名との、少なからぬ規模である事も。 「自警団の連中、意外と知恵が回るな」 呆れた様に告げる護衛隊指揮官。 分隊指揮官の方は、事前に与えられていた地図を見ながら、情報を精査する。 最後に取った連絡から、ザベィジに駐留する第404独立警備大隊から支援部隊が派遣されている事は 知っていたが、その予定到達地点は、この自警団による包囲網の向こう側だった。 十重二十重とまでは言わないものの、三重程度には包囲が成されていた。 「其処までして憎いのか、連中は」 機嫌の悪さを語尾に込め、少しだけ視線を後ろに向ける分隊指揮官。 痩せこけ、疲れ果てた弱者の群れ。 細々と隠れ暮らしていた彼らが何をしたと云うのか。 妻と子を持ち、平成の日本人として極普通の感性を持った分隊指揮官にとって、このガァバン王国の 国民が示す熱狂は、理解の範疇外にあった。 「そんな良いもんじゃない」 憂いを帯びた護衛隊指揮官の声。 心持、その尖った耳を垂らしたその姿に、分隊指揮官は眉を跳ねさせた。 もっと悪い、その事が想像出来なかったのだ。 護衛隊指揮官は続けた。 彼ら、ガァバンの民衆にとって、ダークエルフを狩りだす事は楽しみなのだ、と。 「遊びなのだ。日々への、ちょっとした刺激なのだ」 ガァバン王国は辺境、田舎ゆえに娯楽は少ない。 それ故に、だと。 「男を吊るし、女は犯す。何をしても、誰からも非難をされる事の無い相手だからな、我々は」 自嘲と云うには余りにも悲しい声色で護衛隊指揮官は言葉を漏らしていた。 「どうなるんですかね?」 暗闇の中で呟いたのは、WAiRの隊員だった。 かれは年嵩の下士官へと尋ねたのだ。 「主語が不明瞭だぞ」 歴戦の兵らしく、ふてぶてしい態度で目を閉じたまま、下士官は尋ね返した。 「いや、あの俺たちの状況ですよ」 860 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 57 30 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 5/7 包囲されているのは判っていた。 この隊員として、少なからぬ修羅場は潜り抜けていたのだ、空気は読める。 だからだなのだ。 疑問を抱くのは。 「迷ったか?」 「別にそんな訳じゃ無いです」 隊員は第一くるってる団との呼び声も高い、第1空挺旅団上がりなのだ。 迷うより先に手の出る、筋金入りの脳みそまで筋肉だった。 兵士としては、迷う事などある筈も無かった。 「怖いか」 「それは今更です」 特殊部隊と云う、軍事に詳しくないものにとって非常に有難がり易い看板を掲げていたお陰で、 WAiRは様々な任務に投入されていた。 その本質が、軽歩兵部隊であるにも関わらずである。 それこそ人のみならず、竜だのゴーレムだのゴブリンだのとファンタジー極まりない連中と、小銃片手に、 戦ってきたのだ。 怖いなど、正に、今更の言葉だった。 「ならどうした」 「あの子が言ったんですよ。お日様の国の人だって。ホントにいたんだって」 こんな状況なのに、精一杯の笑顔を見せて喜んだ、ダークエルフ族の少女。 その姿が、隊員の脳裏には焼きついていた。 子供故にか、素直に自分たちを信じた相手を、どうにか護ってやりたい。 そんな、純粋な気持ちだった。 「判った。お前の状況は判った。1つ教えてやろう。その迷いを払う言葉を」 「何ですか」 「ロリは犯罪だ」 「………俺は真面目に言ってるんですがね」 「俺もだ。自衛官たるは憲法の精神を遵守せねばならんからな。甘い物好きのお前が、チョコを渡した辺りで、 怪しいと思っていたのだ。愛があれば年の差なんてってのは、文学上の概念にしか過ぎんぞ」 「………………………」 「冗談だ」 そこまで言ってから、下士官は目を開いた。 暗闇どころか、人すらも見通すようなその目で、隊員を見る。 平成日本から救援に来ました。 そう告げた時、子供から老人まで、尻の座り心地が悪いほどに感激され、感謝されたのだ。 子供たちは無邪気に。 老人たちはかみ締める様に。 そんな姿を見せられて、どうして見捨てる事が出来ようか。 「真面目な話、貴様、俺たちがあの連中を今更見捨てられると思うか? アレを見せられて」 「ええ。非常ですから」 「………………」 「仕返しです」 「いい度胸だ。今度の訓練が楽しみだ」 非常に危険な雰囲気のままに、笑顔を見せる2人。 他の隊員は、ソツなく、見て見ぬ振りをしている。 そんな、非常に微妙な空気を破ったのは分隊指揮官だった。 861 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 58 08 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 6/7 分隊集合の命令に、横になっていた面々が集まる。 「今後の方針が決まったんで伝達する。状況は判っているとは思うが、事前の想定よりも悪化している。 ガァバン王国の連中は、益々、我々を追う手を伸ばしている。現状のままでは早期に補足される事は免れない。 そこで、だ。護衛隊や村長とも話したのだが、グループを2つに分ける事にした。メインは難民だ。 比較的体力に余裕のある第1グループと、余力に乏しい人間の第2グループだ」 「隊長、それはまさか!?」 体力の無い第2グループを見捨てて、第1グループだけで脱出を図るのか。 脳裏に痩せ細った母子の姿が浮かんで、隊員は反射的に叫んだ。 「隊長の話を最後まで話を聞かんかっ!」 それを下士官が制する。 隠密行動中故に、決して大声では無かったが隊員はだまりこむ。 下士官は部隊の背骨。 そう呼ばれるだけはある威厳だった。 「すまんな。さて、2班の行動だが楽にはさせんぞ? 貴様らは、まぁ俺もだがあのダークエルフの難民に 感情移入をしている。好きでそうなったからには、まぁなんだ。文句を言うなよ?」 小さく笑って分隊指揮官は告げる。 囮は、体力のある第1グループだと。 少しだけ時間は遡る。 『正気ですか』 第1を囮とする。 そう告げた時、護衛隊指揮官は呆れた様に呟いた。 護衛隊指揮官と難民のリーダーが考えたのは至極単純な策であった。 体力のある第1グループは護衛部隊と共に、並の人間では追いかける事の出来ない山の尾根を伝って離脱し、 第2は将来の救援を待って、今は目立たぬ様に護衛も付けずに息を潜めて隠れる。 第2が生き残れる可能性は、正直かなり乏しいが、全滅するよりはまし。 それが護衛隊指揮官と、難民のリーダーの判断だった。 重い判断。 2人が情に薄い訳では無い。 それどころか、ダークエルフ族は常に迫害を受けていた身なのだ。 同胞への意識は、他のどんな種族、民族と比べても厚い。 にも関わらず彼らは、自らの同胞を切り捨てる決断をした。 それは彼らの矜持であった。 ダークエルフ族としての、同盟者である日本人に対する切実な感情であった。 重荷の存在を切り捨ててみせる事で自らの合理性と献身とを示し、それをもって平成日本の同盟者とし、 その足を引っ張らない仲間である事をアピールしようとしたのだ。 それは悲しいまでの、弱者の理屈であった。 そしてもう1つ、弱者を切捨てる事を同盟者にして庇護者たる日本人の口から言って欲しく無いとの 悲しい思いも含まれていた。 だからこそ、自分たちで切り捨てる事を決断した。 それを分隊指揮官は真っ向から否定した。 か弱き者を護れず、否、見捨てては、我々の存在意義に関わる、と。 『………無茶だ』 『無茶で結構。それに、ですな。我が分隊は結構な修羅場を潜っとりましてですな、そんな我々に 簡単で安全な任務など正直ツマランのですよ』 そう諧謔みたっぷりに、分隊指揮官は笑って見せたのだった。 そんな流れを掻い摘んで部下に話す分隊指揮官。 862 名前:<平成日本召還拾遺物語 その2> ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/12/24(日) 00 58 41 [ Nz0LbtT6 ] ○高速多機能艦 竹の戦い3 7/7 今後の行動の、一通りの説明が終わった時、最も鼻っ柱の強い隊員が笑って言った。 「アレですか、我々は隊長の趣味で苦難を乗り越える羽目になった訳ですか」 「趣味? そうだな、趣味だ。いや嗜好かもしれん。どうにも俺は女子供の泣き顔やらが嫌いでな」 悪いか? と続けた。 鼻っ柱の強い隊員は、其処まで開き直られては何も言えませんよと笑った。 笑いが広がる。 「それに、だ。レンジャー徽章を取った時の事を考えれば、まだ楽だと思うぞ、俺は」 笑って混ぜ返す分隊指揮官。 「そりゃぁまぁ、倒れたバディはムサイ奴らじゃ無いですからな」 「おお、なら人妻なら俺が抱えても良い。どんな山でも乗り越えてやるさ。ああ、オマケで子供だって、 背負うぞ」 「この年増スキーめ。地獄へ落ちろ」 「熟年の良さが判らぬ阿呆が、何をほざくか」 馬鹿馬鹿しいじゃれあいをする隊員たち。 意識して笑いあう。 それは極僅か、これからの険しい道を前にしての最後のリフレッシュの時間である事を自覚して故にだった。 だが、その笑いの輪に加わらない人間も居た。 常に冷静で“シューター”の渾名を持った男だった。 この分隊で唯一、特別に調整してスコープを付けた64式自動小銃を背負っている。 「しかし隊長、強行突破じゃ無いですよね」 「指揮官が無策でどうする? なに、少しばかり考えてはある。我々は孤立無援では無いのだからな」 休息を取っている一同の上空では、分隊指揮官の要請によって竹から発進したUAVが軽やかに舞っていた。
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大陸暦1098年 5月7日午後4時 重量680トンの帆船であるヴァイアン号は時速14ノットのスピードで南南東 に向かっていた。 船には乗員20名の他に「積荷」である4人の人物が乗っていた。その「積荷」の1人である フランクス将軍は左舷の中央甲板からずっと海を眺めていた。 「将軍閣下、気分はいかがですか?」 後ろから声をかけられた。フランクスが後ろを振り向くと、色黒の筋肉質の男が立っていた。 「プラットン船長か、気分は悪くないよ。むしろいい気分だ。」 「将軍は船は初めてでしたね。」 彼の傍らにやってきたプラットン船長が聞いてきた。 「ああ、そうだが。」 「初めて船に乗る人は大抵船酔いになりやすいんですよ。私も初めの頃はしょっちゅう 舷側に顔をうずめてましたよ。」 そう言うと、フランクスが笑った。 「ははは。あなたにもそんな事があったのか。私のイメージでは船乗りは一度も船酔い したことが無いと思っていたのだが。」 「そんな事はありませんよ。最初は大体の人が、慣れるまで船酔いに苦しむもんです。 あなた方だけであなた以外はみんな船酔いで伸びちまってますよ。」 フランクスら4人のうち、彼以外はみんな初めて経験する船酔いに苦しんでいた。特に リーソン魔道師の酔いはひどかった。ベッドがある船倉に戻れば、 「船からおりたいぃ~・・・・・・しぬ~」 というリーソン魔道師のうなり声がしょっちゅう聞こえてくる。人間は得意不得意 というものが誰にも限らずあるのだ。 「ところで船長、昨日の朝に出航してから大体何マイル進んだと思う?」 「私の推測では、」 彼は懐から海図を取り出した。その海図には大陸とロタ半島が書かれている。その ロタ半島から南東向きに進んでいる線がある。このヴァイアン号の進んできた航路だ。 「今速度は14ノット出ています。ですからこれまでの風や速力の増減、それに時間 を計算すれば・・・・・・・・約800ないし900マイルをノンストップで進んできた 事になります。」 「そうか、さすがはバベルが選んだ高速船だな。普通ならこれの倍以上はかかるところだ。」 「この船はトラビレス協会一の高速船なのですよ。それに幸運の船でもあります。」 「幸運の船?」 フランクスが怪訝な表情になった。 「襲われたことがあるのか?」 「ええ。去年の12月でしたか、この船はシュングリルを出航した2日後にバーマント軍 の通商破壊船に襲われたんです。破壊船から大砲の弾が雨あられと飛んでくるんで、あの時、 私はだめだと思いました。でも、この船に取り付けれている大砲が偶然にも破壊船の舵に当た ったんです。自由の利かなくなった敵船はぐるぐる回り続け、私らはすぐに窮地を逃れました。」 「ほう。それは良かったな。」 「それだけではありません。今年の2月に航路を誤って猛烈な嵐に突っ込んでしまったんです。 嵐の中でマストが折れたり浸水が始まったり、もはや危ない状況でした。今度こそ死ぬなと思い ました。ですが船は嵐を抜け、九死に一生を得ました。」 「なるほど。」 フランクスは頷いた。この船は結構ツキのある船だな。彼はふと、そう思った。 「ちょっとお聞きしますが、召喚した島と言うところに一体何があるのですか?」 「それは・・・・・言ってみなければ分からない。敵なのか、味方なのかも。だが 行けば分かるさ。あの方向には必ず何かある。」 「それは・・・・・戦士としての勘・・・・ですか?」 プラットン船長がおずおずとした口調で聞いてくると、フランクスはニヤリと笑った。 「それも混じってるけどな。」 午後5時 マーシャル諸島から北西300マイル地点 第5艦隊司令部はマーシャル諸島を中心に沖合い200マイルのピケットライン を張り巡らすことにした。 哨戒艦は駆逐艦と重巡、軽巡洋艦、軽空母を使うことにした。東側に12隻、西側に14隻が配備され、 軽空母・軽巡・駆逐艦、もしくは軽巡、駆逐艦、または駆逐艦・駆逐艦のチームで編成され、互いに 5000メートルの間隔を置いて哨戒活動にあたった。 ピケットラインを敷く理由としては第一に海賊船と思わしき船舶をマーシャル諸島に入れないこと、 第2に巨大海蛇がどの海域に多く生息するか調査するものであった。 西側警戒ラインに位置するAグループは軽空母ベローウッド、重巡キャンベラ、駆逐艦ブラッドフォード で編成されていた。警戒ラインにいる艦艇は、燃料の節約のため、毎時16ノットの速度で 割り当て区域を行ったり来たりしていた。 軽空母ベローウッドの艦長であるジョン・ペリー大佐は、艦橋で沈み行く夕日を見ていた。その夕日は とても美しく、彼は美しさのあまり見とれていた。 「いい夕焼けですな。数日前の荒れ模様とは大違いです。」 副長が彼に声をかけてきた。ペリー大佐は窓に肘をかけたまま答えた。 「全くだ。あの嵐のせいで変な世界に放り込まれた。俺は話を聞いたとき、この世界に呼び出した奴を このベローウッドのマストに縛り付けてやりたいと思ったもんだよ。しかし、夕焼けとはいいものだ。 荒んだ心を癒してくれる。」 艦長は夕焼けに顔を赤く染めながら、淡々と言った。その時、電話が鳴った。副長は何事かと思いながら 受話器をとった。 「こちら艦橋だ。」 「こちらはボルチモアの艦長だ。そっちの艦長はいるか?ちょっと代わってくれ。」 「はい。今すぐ代わります。」 彼はすぐにペリー大佐を呼び出した。 「こちらペリー艦長だ。ブラッシュ、何かあったのか?」 「こっちのレーダーが北西12マイル地点で船舶を探知した。見張り員が見たところ、帆船がいる。」 「なんだって!?」 彼は驚いた。12マイルと言うと、すぐ目の前と同じである。その時、艦橋の見張りが叫んだ。 「北西の方角に船舶らしきもの!!」 「なに!」 彼は驚き、双眼鏡で見張りが指を向けた方角を見てみた。なるほど、確かに 水平線上に小さな影がある。船の上には帆らしきものがる。 「こいつは驚いた。帆船らしいな。」 彼はすぐに電話に食いついた。 「こっちでも確認した!」 「そうか。どうする?」 「ひとまず艦載機を上げて上空から見てみよう。」 「同感だな。頼むぞ。」 そう言うと、受話器からブツッという音が聞こえ、回線が閉じられた。 すぐに彼は別の電話に手をかけ、ベローウッドの飛行隊長であるリンク少佐 を呼び出した。 「リンク少佐、今から艦載機を1機出したい。」 「1機、ですね。ヘルキャットを出すんですか?」 「いや、アベンジャーだ。そいつを1機出したい。」 「分かりました。10分前に対潜哨戒から戻ってきた機がありますのでそいつを出します。」 「わかった。」 そう言うと、ペリー大佐は電話を置いた。 ベローウッドの前部エレベーターから1機の折りたたまれたアベンジャーが上がってきた。3人の パイロットが艦橋から走り、アベンジャーに飛び乗った。 エンジンが回され、轟音が飛行甲板に鳴り響く。翼が展開され、アベンジャーがカタパルトに繋げられた。 「面舵一杯!全速前進!」 ペリー大佐が指示すると、操舵員がハンドルを回す。元々、クリーブランド級軽巡洋艦の船体を流用したので、 舵の利きはなかなかいい。機関音が徐々に大きくなり、次第にスピードが上がり、5分後には31ノットの 最高速度に達した。 ベローウッドは回頭し、艦首が風上に立った。発艦要員が伏せ、上げられていた手が艦首方向に向けられた。 次の瞬間、カタパルトが重いアベンジャーの機体を引っ張った。アベンジャーは艦首から一旦沈み込んだが、 すぐに大空に舞い上がって行った。 「水平線上に何か見えまーす!」 マストの一番上に立っていた見張りが叫んだ。夕焼けの赤茶けた空模様を眺めていた フランクス将軍は、何事かとその水平線上を見つめた。 何も見えない。一体何を見たのだ?彼はしばらくその方角を凝視したが、すぐには見つけられなかった。 しばらくすると、うっすらとだが黒い煙のようなものが見えた。 「あれは・・・・・もしかして、破壊船にやられた輸送船!?」 彼はそう思って愕然とした。 「どうした?何があった!」 その時、船倉にいるリーソンらに酔い止め薬をあげに行ったプラットン船長が、マスト の上にいる見張り員に大声で聞いた。 「船らしきものが見えます!小さくてよく分かりませんが、煙を吐いているようです!」 「なに!破壊船にやられたのか!?」 彼は縄梯子を駆け上って、マストの上にある見張り籠ににのぼった。 「いえ・・・・・その・・・・・何といったらいいか。」 「なんだ?」 「何か、変なのです。」 「馬鹿野郎。何か変とは何だ?答えが曖昧すぎるぞ。望遠鏡を貸せ。」 彼は見張りから望遠鏡をひったくると、彼が見ていた方向に視線を向けた。 しばらくは見張りが言っていた煙らしきものが見つからなかった。 「どこだ?」 彼が見張りに言ったその時、3つのシルエットが見えた。 「見つけた。あれか・・・・・・・・・・・・・一体・・・・あれは?」 彼はそのシルエット見て愕然とした。なんと、船に必要な帆がないのだ!普通ならどの船も 帆を張るマストがあるのだ。それが全く見受けられない。 遠くて分かりづらいが、3隻のうち1隻は申し訳程度の船橋しかない。それ以外は真っ平で、 まるで料理に使うまな板を海に浮かべたようなものだった。 残る2隻のうち1隻は大きく、1隻は小さかった。船橋構造物があるが、その姿形は全く異なった 物だった。大きいほうに関しては力強く、やや優美な印象があり、小さいほうは、小ぶりながらも ある種の勇敢さを感じさせるものがあった。 3隻の未確認船はやにわに向きを変え、速度を上げたように思えた。いや、実際上がっている。 「ん?向きを変えたぞ。もしかして、俺たちを発見して逃げたのか?」 彼はそう呟いた。だが、彼はさらに驚いた。なんとスピードが早いのだ。それも20ノットどころではない。 「早い。早いぞ!なんということだ、25ノット以上はでてるぞ!」 「25ノット!?」 部下の見張りが素っ頓狂な声を上げた。 「そんなのありえませんよ!」 「だが実際に早いぞ。ん?」 その時、彼は真っ平な甲板を持つ船から小さく、黒い何かが舞い上がったのを目撃した。